花が語るのは、凄絶な美。冬の花を愛でながら一献。
- ★★★ Excellent!!!
冬に咲く花を題材にした三つの掌編はいずれも静かで美しく、それぞれに異なる余韻を残す。
「枇杷」は密かな告白と温和さを、「侘助」は控えめで簡素な佇まいを、「梅」は忠実さと忍耐という高潔であり『決して許さぬ』という気配を宿す。
二面性の怖さを書かれたら右に出る者がいないのではないか?という著者。
三作すべてが印象深いが、とりわけ私が心を強く掴まれたのは「枇杷」であるため、本レビューではまずこの一編から触れたい。
本作「枇杷」は、冬に咲く花という静謐な題材を用いながら、告白と裏切り、そして復讐を一気に噴出させる掌編である。
前半では、山の冬景色と少女・空風の無邪気さが丹念に描かれ、枇杷の花の香りが穏やかな幸福の象徴として機能する。その空気があるからこそ、「密かな告白」という花言葉を帯びた求婚の場面は、自然で甘やかな余韻を残す。
しかし後半、その花が「殺す」毒へと反転した瞬間、物語は容赦なく地獄へ落ちていく。特筆すべきは、空風の復讐が激情ではなく、長年沈殿させた記憶と理性の上に成り立っている点だ。
彼の一人称で積み重ねられる九年間の回想は、彼自身の情が本物であったことを示しつつ、それでも免罪されない罪の重さを突き付ける。
終盤、空風が覚醒する描写は妖しく美しく、被害者と加害者、人の境界が反転する瞬間に強烈なカタルシスを生む。
枇杷という花の二面性を、愛と毒、告白と告発として見事に物語化した、冷たくも鮮烈な一編であり私の心を捉えて離してはくれないのだ。