LOUNGEの曲線美(2)

 同じマンションの住人同士で一緒にカフェに行き、一緒に帰ってきたからといって、訝しむ人が果たしているのだろうか。佐久間には疑問だったが、神谷曰く、これも探偵としてのリスクヘッジとのことだった。


 神谷の提案で、佐久間は先に帰宅することになり、たった今、遅れて神谷が帰宅した。


 神谷が探偵であること、依頼を受け潜入捜査として居住していること、ストーカー被害のこと――。佐久間が聞いた話は、未来永劫に他言無用。神谷から強く口止めされている。


「あー、神谷さんだ。ちゃお」


 万代は、神谷の芝居がかった態度を、特に気に留めていない様子だ。

 神谷は、万代の脚線美が佐久間の着ていたパーカーで隠れているのを見て、佐久間の気遣いを瞬時に察した。


「姐さん、相変わらず露出狂ですね」


 察して、瞬時に台無しにした。


「これって公然わいせつ罪?」

「大丈夫です。とても目に優しい」


 神谷のストレートな発言はセクハラになるのではと、佐久間は内心ハラハラした。


「今日はお仕事だったんですか?」

 話題を変えようと佐久間が、万代に話を振る。

「そう。モデルのね」


 万代はモデル事務所に所属していて、ファッションショーをメインに活動していると、佐久間は聞いていた。


 初対面で万代がモデルだと自己紹介したとき、ファッションに疎い佐久間は、

「テレビや雑誌をあまり見なくて、存じ上げずにすみません」

己の無知を丁寧に詫びたが、

「大丈夫。テレビも雑誌も出てないし。無名の売れないモデルだから」

万代はあっけらかんとした態度だった。


 そして、こう続けた。

「あ、でも、一般知名度の低いランウェイモデルが売れてないってことじゃないのよ。業界で有名な人は沢山いるから。私の知名度が低くて、売れてないだけ。モデル活動している知り合いに、テレビで見ないから売れてないんだーなんて、言っちゃダメよ」

「モデルの知り合いがいないんで大丈夫です」

 同じキャンパス内に雑誌モデルをしている同期生がいるが、佐久間とは縁遠い。

「それに私、『売れないモデルの万代です』ってフレーズ、結構気に入っているんだ」

 そういって笑う万代からは、どこか余裕を感じられる佐久間だった。


「姐さん、テレビとか出ないんですか?」

「んー、カメラの前で喋ったりリアクションしたり、そういうタレント性の高い仕事、私は向いてないのよ」


 神谷のずけずけした質問にも嫌悪感を表さず、さらりと返す万代。


「めちゃくちゃ向いていそうですけどね」

 神谷は本心でそう思っている。佐久間も隣で同意する。


「大勢やカメラの前で喋るのは苦手なんだー。こういう姿晒せるのは、気を許している人の前だけ。ランウェイを歩くのは平気だけど、アウェイではダメダメなの」

「ランナウェイ」佐久間がポツリと呟いた。

「ちょっとおいなんだよ今の」

「佐久間くんっておもしろーい」


 ぽつりとつぶやいた佐久間の発言に場が湧いた。思わぬ注目を浴び、佐久間は急に照れ臭くなった。

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