LOUNGEの脚線美(1)

 神谷と別れた後、佐久間は再び〈ル・フェルニッシュ〉のエントランスに居た。


 屋外から一つ目の自動ドアを通りエントランスの中に入った時、集合ポストが並ぶ壁に一瞬だけ視線を向けたが、誰もいなかった。


 エントランスから更に内部に入るにはキーが必要となる。佐久間は、モニター付きインターホンが搭載された集合玄関機にカードキーをかざし、鍵のかかった自動ドアを解錠する。二つ目の自動ドアはオートロック連動で、ラウンジに足を踏み入れた佐久間の背後で静かに閉まり、無音で施錠された。


 小さなラウンジの中央には、堂々とした存在感の、艶やかなレザーソファと、お揃いのオットマンが置いてある。待合室の意味合いも含め、ちょっとした来客対応を意識しているのが一目瞭然だ。


 ラウンジから続くリビング、その奥のダイニングまで、ワンフロアぶち抜きで見晴らしがよく、空間を分断するためのドアや間仕切り、大きな段差はない。インテリアの配置や演出によって、場所を上手に使い分けているということが、空間デザインに明るくない佐久間にも、肌感覚で理解できる。


 〈ル・フェルニッシュ〉の中でも一際、高級感溢れるラウンジのソファに、視線を奪う曲線美が転がっていた。


「あ、佐久間くんだ。おかえりなさい」

「ただいまです」

 

 201号室の万代もずだ。

 うつ伏せになり、エントランス側に足を向け投げ出し寝転んでいる。皮張りのソファの上で堂々と寛ぐ美脚あしに迎えられた佐久間。

 上半身を捻るように起こして佐久間の方を向き、声を掛ける万代。


 万代の服装は、ショートパンツにノースリーブのカットソー姿で、随分と軽装だった。青いデニム地のショートパンツからは、すらりと真っすぐに長い脚が伸び、透き通るような白い肌が目立つ。

 

「あの、万代さん。寒くないんですか」

「うーん? 言われてみれば、少しだけ寒いかも」

「言われてみればって」

「今、佐久間くんに言われてから寒くなちゃった」


 そういって万代は自分の身体を抱きしめる仕草をして見せる。

 佐久間は羽織っていた薄手のパーカーを脱ぎ、ふわりと優しく万代の足に被せる。膝小僧を中心に、太腿から脹脛の上部までが覆い隠された。


「ありがとう。佐久間くんは優しいね」

「いえ」

「でもどうして足なの? 普通、肩じゃない?」

「いや、深い意味があるわけじゃ」


 言いながら佐久間は、無意識に露出面積の広い方をパーカーで覆い隠したことに気付いた。


「おやおや。こんなところで、お揃いで」


 エントランスから神谷がやってきた。

 さっきまで佐久間と一緒に居たにも関わらず、さも今、偶然出会ったかのように接する。


 幾分、お芝居が過ぎないかと佐久間は呆れた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る