第6話 全員脱出 ブラック異界を破れ!永遠のハロウィンからの旅立ち

その朝、朝礼でリーダーのボクがみんなの前に立ってハロウィン万歳を三唱し、夜のミーティングも呼びかけた。

「もうすぐ、クリスマス商戦。ハロウィンクリスマスです。そこで今晩ミーティングを開きたいと思います。休憩室に集合願います」

みんなは、はぁぁってため息をついた。


朝礼直後、ボクはみんなにハロウィンクリスマス商戦の資料を配りながらさりげなく、こっそりとメモを渡した。

「外の風、隙間あり!読み終わったらすぐに破ること」



夜の休憩室、ケチな親方は夜には照明をケチる。ボクの体がオレンジの光を放ちあたりを明るく照らす中、ボクは声を潜めて切り出した。

「みんな、聞いて。このモール、なんかおかしいよね。給料はポイント、資格取らされて、一年中ハロウィン……。

外の風が吹いてるところがある、隙間があるはずだよ。一緒に脱出しよう?卒業した黒魔女さん達が調べてくれたんだ、脱出方法を」

美魔女さんが、妖艶な笑みを浮かべて頷いた。

「坊や、隠居前にもうひと暴れしたい気分よ。やりましょうよ。」


凶ポメラニアンが、しっぽをぶんぶん振って「ワン! おじいちゃんに会いたいワン! 外で本物の月を見たいワン!」

なまはげさんが、仮面の下で目を光らせた。

「おう、俺も地元に帰りたいべ」


かぼちゃさんたちも、頭を重そうに揺らしながら同意した。


計画はシンプル。ボクが体の力をぬいたまま発光体で暗い通路を照らし、風の来た方向を探す。


美魔女さんの魔法で鍵を溶かし、凶ポメの凶暴モードで障害を突破、なまはげの力で壁を壊す。



黒魔女さんの連絡でドラキュラやミイラ男、フランケンシュタインの先輩たちも駆けつけてくれた。廃モールの外、第3裏玄関で待機とのこと。

「永遠のハロウィン迷宮をぶっ潰すなんて、血が沸くぜ」

彼らや魔女さんは生者だ、失敗すれば命を失ってしまう。それなのに協力してくれるなんて。


バックヤードの左奥、食品倉庫の壁際。風が強く吹く隙間を見つけた。そこは古い換気口で、錆びた格子が邪魔してる。

「ここだ!」と思わず叫んだ。


突然、ドスンという地響き。かぼちゃ親方が現れた。

くねくねと触手のようにツルを伸ばし、鞭のように叩きつける。かぼちゃの種が、ネバネバとした弾丸のように降り注ぐ。それが床に当たると、焦げたような臭いが立ち込める。


いつのまにか、子どもたちが集まってきていた。おびえて震えている。

「来ちゃダメだー、離れて―」

かぼちゃさん達が彼らを連れて壁の向こうへ走っていった。


ボクは親方の強烈なツル攻撃を、ふわふわと浮かびながら避け続ける。その隙に、なまはげさんが凄まじい雄叫びと共に壁際の換気口に飛びかかった。

「邪魔なモンはねじ伏せるべ!」


次の瞬間、凶ポメラニアンが親方の足元で凶暴モードを発動し、咆哮と共にツルの根元を噛みちぎる!親方の動きがわずかに止まる。

「坊や、今よ!」 美魔女さんが閃光を放ち、ツルを絡め取る呪文を親方の本体へ叩き込んだ。かぼちゃにヒビが入った。


長い死闘の果てに、かぼちゃ親方こと邪悪なジャックオランタンは破壊された。外からのフランケンさん達の攻撃もきいたみたいだった。


「ハロウィン、サヨナラ!」

親方のオレンジの体が爆発するように砕け散り、最後は花火のように派手に火花が飛んだ。モール全体がグラグラと揺れた。

ニセモノのモールの壁と天井が崩れて落ちてきたけど、僕らに痛みはなかった。もちろん子供たちも無事だ。


本物の夜空が見えた。星が輝き、冷たい秋風がボクの透明な体を通り抜ける。ああ、久々のこういう感覚。


ボクはみんなを見て、微笑んだ。

「やったね……」


別れの時が来た。

フランケン先輩が、ドラキュラ先輩を誘う。

「よーし、腹減った、屋台のラーメン寄っていこうぜ」

「ニンニクなしなら行く、その前にコンビニな。トマトジュース買わないと」

「じゃあな、かわいいゴースト君!」

彼らは生きている、自由に旅立つ。ボクは手を振り、見送った。

生者は家へと帰る。

そして幽霊、ハザマの者たちにもそれぞれ目指す場所がある。

ミイラ男が包帯を巻き直し、「博物館の墓に戻るよ。ちょいと眠い」


美魔女さんが、ボクの頭を撫でる。

「坊や、ありがとう。あたしは隠居よ。森の隠れ家に戻って、健康食品を楽しみながら生きるわ。勘がいい魔女は、長生きするのよ。

何かあったらここに連絡を」とボクに名刺を差し出した。


その紙はボクの手のひらをすっと通り抜けてぽとりと下に落ちた。呆然としたボクだったけど、笑顔でかえした。

「ありがとう、モールの魔力がなくなって、ボクはゴーストらしくなってきたみたい。階段を一つ登ったんだよ」

魔女さんはボクの耳にそっと電話番号をささやいてくれた。

そして、マントを翻し、夜の闇に溶けていった。


なまはげさんが、仮面を外して笑う。

「おう、めんけぇゴーストさん。秋田に帰るべ。納豆食って、子供泣がすべよ。また会おうぜ」彼は力強く背を向け、去っていった。


彼らの足音が遠ざかっていく。廃モールの駐車場に、ボクたち幽霊は取り残されたように立っていた。


凶ポメラニアンが、ボクにすり寄る。一瞬だけ彼のふわっとした毛の気配を感じた。

「ワン! ありがとうワン。おじいちゃんに一目会ってから行くワン!」

「うん、ボクもじきに行くから」

ポメは死んだ犬の幽霊。体が淡く光り始め、薄くなってきた。

「みんな、バイバイワン!」しっぽを振って、駆け出した。

ボクは後ろ姿に手をふった。


あれ?ハロウィンの子供たちの服装が変わってる!今風のパーカーやパステルカラーのワンピースが、継ぎのあたったモンペや地味で質素な洋服姿に。防空頭巾をかぶっている子もいた。


彼らは、両手に持ち切れないほどのお菓子を持ってる。そう、あのトリックオアトリートのお菓子だ。ドロップ、グミにマシュマロ、キャンディ!ハロウィンのおもちゃやバルーンを手にしている子もいる。

きっと戦時中は食べる事のなかったお菓子におもちゃだ。どの子も満足げだった。それだけはかぼちゃの親方に感謝!


白い霧のような光りに包まれて、体が薄くなっていく。

ようやく——本当にようやく——天へと登っていった。


かぼちゃさんたちも、次々と光に包まれる。行きにちらっと子供たちを見てくるよかぼちゃ父さんも笑っていた。


ボクは薄くはなったけど消えなかった。

天に行く前に諸国漫遊だ。

フワフワと僕は飛んでいく、きままに自由に。


噂によると、あれからすぐにモールは取り壊され、あっという間に整地されたらしい。

そこには桜の苗木が植えられ、畑が作られたそうだ。小さなお地蔵様が作られ、教会もできたとうわさに聞いた。

すぐにアパートやマンションも建てられ、保育園もでき、子供たちの楽しげな声がきこえるという。


旅は順調だった。途中で、時々お供えのあんパンを食べた。でも、もう本当に食欲がなくなったみたいだ。


ある春の夜、ボクは本当に薄くなった白いからだでモール跡を訪れた。

苗木は根付き、サクラが数輪咲いていた。

月の光に教会の十字架、そしてカラスが静かに照らされていた。


さよなら、そろそろボクも行くよ。

ボクの体はサクラの花びらとともに風に乗って空へ飛んで行った。


その夏、モール跡地で新しく開墾されたかぼちゃ畑では、ひときわよく育ったかぼちゃが、月の光を浴びてニヤリと笑ったという。まるで新しい始まりのように。


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永遠のハロウィン🎃ブラック職場あるある正社員への道 チャイ @momikan

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