Chapter3「米が無限に湧くんだよ」

 雪乃宮高校に呪具が多すぎる件について。本来、呪具はそう簡単に手に入らない。なのに、猫葉は二日連続で、呪具に遭遇している。ちなみに、校長は初犯故、反省文で済んでいた。校長だからって刑が軽すぎると思う。まぁ、それはともかくとして、呪具が多すぎる理由を、祖母に聞いてみた結果。


 校長が持ち出した呪われたマイク。あれの呪いの力が強すぎて、他の呪具を呼び寄せた。雪乃宮高校は、強烈な霊障を受けている状態らしい。それにより、校内にひっそりと散らばる呪具を、生徒や教師が手に取ってしまい、呪いが発生しているそうだ。

 祖母が校舎の浄化を申し出てくれたが、一筋縄ではいかない。ということで、猫葉は雪乃宮高校にある呪具を、片っ端から回収する命を受けた。面倒だ。あの校長、余計なことしやがって。不満を顕にエプロンをつけて手を洗う。今から調理実習の時間だ。作るメニューは炒飯。料理なんてしたことがない為、同じ班の人達に任せることにする。


 同じ班の人達が炒飯を作る中、大人しく見守っておく。ネギをみじん切りにしたり、焼豚を切ったり卵を溶きほぐしたりと楽しそうだ。卵ぐらいならできる気がするななんて思いながら、洗い物が出るまで待つ。

 すると、ボウルに白米を入れる段階まで来たところで、どうやらトラブルが発生したらしい。炊飯器の周りに、班の皆が集まっている。猫葉も呼ばれた為、急いで駆け寄った。異変を見つけた木乃葉から話を聞く。彼の手首には、新しく発明したらしき数珠がある。


「炊飯器が壊れた?」


「米が無限に湧くんだよ」


 怪訝な顔で鸚鵡返しした猫葉に頷く木乃葉。試しに炊けた白米をよそってみた。炊飯器の中身が減らない。むしろ、どんどん増えていき、炊飯器に白い山ができる。どんどん溢れていく白米は、器用にも床に落ちることなく、天井に届くぐらい高くなった。猫葉は苦虫を噛み潰したような顔をする。


「うぇぇ、早速かよ」


 はぁーっと深く溜息を吐き、炊飯器に水筒のお茶をかけた。呪われたマイクや箒みたいに、動かないし、邪魔さえ入らなければ、壊さずともこれで終わりだ。今回は誰かに持ち込まれたというより、呪具が姿を隠す為、家庭科室の炊飯器に紛れたのだろう。ということで、普段より楽な解呪の作業は終了。残された課題をこなすべく、猫葉は仏頂面で白米の山を見上げる。


「あとは、この山盛りの白米を食べて減らすだけなんだけど、きっついなぁ」


「食べても大丈夫なの?」


「もう呪いは解けたから」


「じゃあ、取り敢えず、予定通りに炒飯でも作る?」


「よろしく」


「猫葉もやるんだよ」


 不安そうな顔の生徒に問題ないと告げると、班の一人が炒飯作りの再開を提案。猫葉は洗い物担当として待機しようとしたら、木乃葉に手を引っ張られて台所に連れて行かれる。ボウルに白米と油を入れて、しゃもじでほぐす作業を任された。更に、これに卵を加えて菜箸でしっかり混ぜる。炒める段階に来たところで、任せきりにされた猫葉が、不安を滲ませて降参する。


「ねぇ、流石に炒めるのは無理だよ」


「えぇー、頑張ってよ。猫葉が作った料理が食べたい」


「じゃあ、手伝って?」


「喜んで!」


 不安で瞳を揺らしながら、上目遣いで小首を傾げた結果。挙手しながら即答した木乃葉に見てもらえることになった。木乃葉がちょろすぎて不安になる。なんて思いながら、フライパンに油を入れて強火で熱し、十分に温まったら中火にした。卵入り白米を投入して、木べらで全体に広げつつ、小刻みに動かして炒める。

 途中、木べらで白米の上下を返した。白米がパラパラしてきたら、ネギと焼豚を加えて、炒め合わせる。全体が混ざったら、いったん火を止めてフライパンの中央を空け、醤油を足す。再び中火にかけ、醤油が香り立ったら、全体を炒め合わせる。最後に塩と胡椒で味を整えて完成。ほとんど猫葉が作った炒飯を分ける。


「猫葉の手作りだ、やったぁ」


「言っとくけど、俺、料理したことないからね? 味なんて保証できないよ?」


 小躍りしそうなほど喜ぶ木乃葉に戸惑う猫葉。不安の色を含ませた瞳を揺らし、味の保証はできないと言い切る。期待に応えられるか心配する猫葉に、木乃葉はフッと柔らかく口元を綻ばせた。ポンっと頭の上に置かれた手が左右に動く。緊張で無意識に強張っていた身体から力が抜けた。


「心配ないよ。猫葉が作った料理なら、炭になってても食べるから」


「美少女の手料理の価値を嘗めるなよ」


「そうだぞ、もっと自覚しろ」


「何で俺、怒られてんの?」


 険しい顔をした男子達に、不安を拭い去るように、強くはっきりとした口調で怒られる。猫葉は突然の説教と謎の自信に狼狽えた。けど、男子達の曇りのない眼差しは、嘘偽りないと一目瞭然で。満更でもなく感じた猫葉は、ふにゃりと幸せを溢れさせながら満足気に微笑んだ。優越感と喜びと羞恥を滲ませた頰を緩めていると、近くに居た女子生徒にそっと抱き締められた。

 「なんで?」と小首を傾けた結果。返ってきたのは、「あまりの可愛らしさを備えた笑顔に庇護欲を駆られたから」。引き締まった顔で、真っ直ぐに見つめられ。挙句、早口だった為、少し気圧されて、軽く身を引く。そんなことがありつつも、猫葉はどんどん炒飯を振る舞った。何故か班の皆がひたすらおかわりを要求してくれるのだ。嬉しいし作るのも慣れてきたが、一心不乱に口にかき込む姿を見て疑問を抱いた。


「流石に炒飯ばっかりだと飽きない?」


「大丈夫だ、問題ない」


「紅咲はひたすら炒飯を作ってくれ」


「女子は無理するなよ」


「嫌よ、私も紅咲さんの料理食べたい」


「美少女の料理が男だけに好かれると思わないでよね」


 まるで呪われているみたいに食べる手を止めない男子達に、負けじと食らいつく女子。ちなみに、班は全部で六人。男女三人ずつである。本人達が大丈夫ならと、猫葉は炒飯作りを再開した。すっかり慣れた手つきで、木乃葉に教わったレシピ通り作っていく。炊飯器の白米はまだまだ残っていた。ぜんぜん減っている気がしない。

 チラリとそれを視界に入れた瞬間、まだ残っていることに絶望にしたのか。炒飯を食べ進めていた木乃葉の手が遂に止まる。スプーンを持ったまま、うつむいて動かなくなった。石像と化し木乃葉が心配になって、火を止めてから近付く。と、顔を伏せた木乃葉から、リクエストが届いた。


「なぁ、猫葉。俺の炒飯に『おいしくなーれ』っておまじないかけて? あっ、『にゃんにゃんにゃん』も忘れずに」


「何それ、やだ」


「してくれたら、もっと食べれるんだよぉ。頼む!」


 想像しただけで羞恥に襲われ、頰に一重梅を咲せて断ると、腰に抱きついた木乃葉に泣きつかれる。「もっと食べられるなら。いや、でも恥ずかしい。どうしよう」と、目をグルグルさせて悩む。いつの間にか、班員の全ての視線が、猫葉に集まっていた。これはやるしかない。覚悟を決めて、木乃葉の炒飯を見る。


「お、おいしくなーれ。にゃんにゃんにゃん」


 でも、やっぱり恥ずかしくて、視線を逸らしながらおまじないをかけた。無意識に猫のポーズまでしてしまって、恥じらいが倍増する。拳を作った両手首を垂らし、頰の横に固定したまま硬直した。

 誰か俺から今の記憶を消してくれ。誰も何も言ってくれないから、さらにカァーっと頰が紅潮していく。「お前のせいだぞ、ばかっ!」と涙目で木乃葉を睨めつければ、我に返った彼に、腰を強く抱きしめられた挙句、「ありがとう!」と感動された。


「なら、俺は『ご主人様がんばってぴょん』で」


「ねぇ、きもいんだけど」


「碧井だけ贔屓なんてずるい!」


すると、隣に座っていた男子生徒が、調子に乗って便乗してくる。真剣な表情を真っ直ぐ向けて、気持ち悪いことを言う彼にドン引きした。揶揄っているように見えないのが、尚更、タチが悪い。猫葉に冷めた瞳を突き刺された男子生徒は、ずるいずるいと駄々をこねて騒がしくなる。確かに木乃葉にだけやるのは不公平か。


「ご主人様がんばってぴょん」


「棒読み!?」


 ということで、呆れを含んだジトッとした半眼で、男子生徒の炒飯におまじないをかける。なんか可哀想だから、せめてもの情けで、開いた両手を頭に乗せて、うさ耳を作ってあげた。

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解呪専門部 甘夏みかん @Afpm5wm

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