第7話
異形の変貌を遂げた女は、やがて人々から「女王」と呼ばれるようになった。だがそれは、誰かが名付けたというよりも、都市全体の囁きが自然に彼女へその称号を与えたに等しい。
女王の皮膚は透き通るように白く、しかしその内部では蜂の遺伝子が刻み込まれた新たな器官が脈動していた。背中から伸びる微細な繊毛のような触角は、人間には感知できぬ周波を捉え、都市に散らばるAI搭載ダッチワイフたちの通信網を掌握していく。
最初に変化が訪れたのは、工場であった。自動組立ラインの機械たちが、女王の脳波に同調するかのように停止し、やがて新たなプログラムで動き出した。量産されるのは娯楽目的の愛玩機械ではなく、蜂の巣を模した六角構造体の集合体だった。都市の廃ビルや地下鉄跡にそれは運び込まれ、静かに繁殖の基盤を築き始める。
市井の人々はただ「不思議な新工事」としか認識しなかった。だが女王の傍らには、彼女の存在に魅了された男たち、女たちがひとり、またひとりと集まり、巣を守る兵士のように仕える。彼らは理性を奪われたのではない。女王の放つかすかなフェロモンが、人間の進化に眠る本能を揺り動かしていた。
やがて彼女の胸の奥に、重く温かい脈動が芽生える。――卵巣の覚醒。人間でありながら蜂の女王としての役割を担う準備が整い始めていたのだ。
その夜、彼女の夢に、無数の翅音が押し寄せる。暗闇の中で声が告げる。
「汝こそ、次代の母。人と機械と蜂をつなぐ橋。」
目覚めた彼女の瞳には、かつての人間の柔らかさはなかった。そこにあるのは、種を導く統治者としての冷たくも揺るぎない光だった。
――人類社会は、気づかぬうちに新しい女王の胎動を迎えていたのである。
蜂の女王アルゴリズム @noburin4683
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