皆を集めてください
僕はもう一度動画を再生し、食い入るように画面を見つめていた。手がかりはきっと動画の中にあるはずだ。それを見つけなければ。しかし新たな発見はなくそのまま動画は終了してしまった。
「ああー。手がかりが何も見つからないよー。」
「うるさいわね。さっきは自分で考えるっていってたじゃない」
「そうなんだけど・・・」
僕がうなだれていると教室のドアが開いて手にミルクティーを持った森山先輩が現れた。僕は姿勢を正して森山先輩に挨拶する。この人にはかっこ悪いところは見せられない。
「おはようございます。森山先輩」
「おはよう。佐藤後輩。それにしても二人とも仲良くなったみたいで良かったよ。さっきまで楽しそうに話していたし」
どこがよ。とすねた子供のようにギャルは頬杖をついた。まったくだ。どこを見れば仲が良いと思うのだ。僕もあえてギャルと同じポーズをしてそっぽを向いた。
「ほら。仲いいじゃないか・・っておっと。やべ。」
森山先輩を見るとミルクティーをこぼしたようで床に茶色い液体が広がっていた。
「大丈夫ですか?」
「ああ。服にはかかってないから平気だよ。何か拭くもの・・そうだ」
森山先輩は部屋の隅にある掃除用具が入ったロッカーを開けて、少し赤く染まった雑巾を取り出した。
「昨日の血の色が少しついちゃってるなー。まあ雑巾だしいいか。」
森山先輩は雑巾を両手で広げると水で濡らしてくると言って教室を出て行った。昨日の床の血を掃除するのに使ったのだろう。あれを新入生の入部テストの度にやっていたらと思うと胃がきりきりと痛んだ。
そういえば掃除用具のロッカーはまだ調べて無かったなと思いロッカーを開けると、内側の壁に血痕があった。これは掃除でついたものか?でもそれなら放置するはずはないし。
考えを巡らせていると水に濡れた雑巾を持った森山先輩が教室に戻って来た。
「森山先輩。この血痕は?」
「それは事件のときについたものだよ。栞から消さないように言われていたんだ。何かの手がかりになるかな?」
「めちゃくちゃなりますよ!森山先輩も教えてくれればいいのに」
「足を使って手がかりを探すのも探偵の基本だろう?入部テストはそこまで甘くないということだよ」
「ぐぬぬ。確かにそうですね」
手がかりは画面の中だけだと思っていたが部長は手がかりを残してくれていたみたいだ。これはもう一度教室を調べないと。
でもロッカーの中に血痕ということは何か血のついたものをここに隠していた?しかも血痕からして結構な血がついている。
何か血のついた隠さなければならないもの・・
そうか!でもまだ理由が分からない。死体を吊ったトリックを解かないと先には進めない。まだ教室に手がかりがあるはずだ。
僕はロープが通してあったシャンデリアを見つめる。監視カメラの映像ではこのシャンデリアの一番上の大きな鎖にロープが通されていた。
やはりこのシャンデリアでは部長の体重を支えきれない。部長は浮いていたように見せかけただけ?一瞬見ただけのギャルなら騙せるかもしれないが監視カメラの映像を見ている僕ならすぐに分かるだろう。
監視カメラに細工した?映像をすり替えたとか。でも部長がそんなアンフェアな事をするとは思えない。
僕がうなっていると教室のドアが空いて、息を切らした部長が顔を覗かせた。
「ふー。すまない遅くなった」
「栞。そんなに急いでどうしたんだい?」
「副会長に追い回されてね。今日中に片付けないといけない仕事があるとかいってたけど、うまくまいたみたいだ」
「それ大丈夫なの?」
「問題ない。今日中にやらなきゃいけない仕事などこの世には存在しないのだ。それはどうでもいいとして窓開けてもいいかな。走ったから暑くて」
「えー。私寒いんだけど」
「まあまあ。いいじゃないか」
部長がそう言って窓を開けると、肌寒い風が教室に入りこんできた。そういえば森山先輩とギャルが部長の死体を発見したときも窓が開いていたような。
もしかして・・
僕は開いている窓に向かい、窓から屋上を覗いた。見上げるとロープのようなものが屋上の手すりにくくりつけてあった。
やっぱり!そうなると犯人は。
「何か分かったような顔をしているね」
部長は僕のにやけ面に気づいたのかそう言った。よし。人生で一度は言ってみたいセリフ第三位を言うときが来た。
「はい。犯人が分かりました。皆をここに集めてください」
「何かっこつけてんのよ。ほとんどいるじゃない。あと先生だけでしょ。」
「そこうるさいですよ」
「じゃあ誰が先生を呼びにいくかだが・・」
皆の視線が僕に集まった。
「分かりましたよ!僕が呼びに行きますよ!」
僕は勢いよく教室のドアを開けた。
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探偵は吸血鬼 @nasshi1984
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