リスと愛が溢れる窓辺【1分で読める創作小説2025】

オカン🐷

第1話

 道路に面した両開きの窓の手前でマリンが俯いていた。


「おはよう、マリちゃん。何してるの?」

「リスさんにご飯あげてるの」

「ふ~ん」

「何、そのふ~んは。アホやと思うた」

「思うてへんよ。可愛いなと思て」


 海はやっと身体を駿太郎の方に向けた。


「やっぱりアホやと思てる」

「思うてへんよ。それより僕にも朝ご飯頂戴」


 そう言いながら窓の手前で向き合う陶器のリスとアーモンドに目をやった。

 そのリスは叔母がこの家に住んでたときからそこにあったのか、海が持って来たものかわからなかった。

 マリちゃんはこういう暮らしに憧れるのか。



「ピザトーストでええ? うちのスマホでノンちゃんを呼んで」

「えっ、紀子を呼ぶの。呼ばんでええんと違う」

「冷たい兄貴やね。それにノンちゃんなら美味しい珈琲煎れてくれるわ」

「せっかく二人で甘いモーニングタイムをと思うたのにな」


 ダイニングテーブルの真ん中にタバスコを置いた。


「甘くないで。辛いピザトーストや」


 玄関の扉の開く音がした。


「おはよう、ママが心配しとったで。シュンが帰らなかったって」

「僕24歳やで」

「幾つになっても子どもの心配をするもんや。駿太郎、スマホくらい持ったら」

「いらんよ。連絡とることもないし。マリちゃんにはこうして逢える」

 駿太郎の鼻の下が限りなく伸びた。


 レタスとキュウリ、トマトの入ったサラダをテーブルに置いていく。


「おっ、うまそ」

「お兄ちゃん、サラダ食べられるようになったん?」

「そりゃ、彼女が作ってくれたサラダは格別や」

「誰が彼女やねん」

「お前たち仲ええの。ハモることあらへんやろ。紀子、珈琲まだか?」

「はい、ただいま。むかつくなあ」


 紀子は駿太郎の目の前にマグカップをドンッと置いた。


「おい、そっと置かな零れるやろ」

「うるさい」

「はい、二人ともピザトースト焼けたから熱いうちに食べて」

「マリちゃん、僕もう1枚焼いて。パンだけでええから」

「うん、わかった。で、トーストに何塗って食べるん?」

「自分でやるからいい」

「そうよ、マリちゃん、お兄ちゃんにやらせればええねん」


 鼻歌交じりで冷蔵庫の扉を開けた駿太郎はバターとジャムの瓶を取り出した。


「マリちゃん、そんなにタバスコかけるの?」

「うん、たっぷりとかけるの」

「そんなに辛いもの食うと味覚障害になるぞ」

「えらいこっちゃ」



「バターと苺ジャムのマリアージュ」と上機嫌だった駿太郎がある日、忽然と姿を消した。医学部を卒業した駿太郎は隣家の実家にも戻っていなかった。

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