第146話 ケーキはいらない


「よかったらこれ、食べてくれないか」

 ある日曜日の夕方。僕は高級洋菓子店のケーキ詰め合わせを持って、久しぶりに近所に住む友人の家を訪ねた。


「どうした、なにかあったのか?」

「最近忙しくて、娘と遊んでやれなくてさ。お詫びのしるしにと思ってデパートでケーキを買ったんだが、どうしても持って帰れない事情ができてしまって」

 戸惑う友人にケーキが入った箱を手渡す。


「親子でケンカでもしたのか?」

「まさか。親子関係は良好だよ」

「娘さん、お腹でも壊したのか?」

「いや、元気だよ」

「だったら、どうして?」

 首をかしげる友人に僕は答えた。


「実は」

 さっき、妻から連絡があったのだ。

 娘が初めてケーキを作って、ひとくちも食べずに僕の帰宅を待っていると。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

原稿用紙1枚の物語 あいはらまひろ @mahiro_aihara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ