第3話コビトさん(仮)~後編~

そして波乱の学校の終わり、放課後になりました。


「おーいトータ!明日も小人さんを連れて来てくれよー!」


そう言ったのは関谷でした。

色々やりあっていたけど小人さんがとても気に入ったようです。


「私からもおねがーい!」


そう懇願するのは小嶋さん。

いつか小人さんを自分の部屋に呼ぼうと画策する野心家です。


「帰り道途中まで同じだろ?一緒に帰ろうぜ!」

「あ、ずるーい!私も私もー!」


トータを一緒に帰ろうと誘ったのは平賀でした。

彼は前からトータと少しだけ仲が良かったとは言え、それまでは一緒に帰る事はありませんでした。

そう、小人さんが現れた事でトータに興味を持ち始めたのです。

そして平賀がトータと一緒に帰りたいと言うとそれに早速反応する小嶋さんでした。


「え?トータって何処に住んでるんだっけ?」


そう質問したのは田辺でした。

何だかんだ言って田辺だって小人さんとトータに興味津々なのです。


「あー!部活さえなけりゃ!」


トータと田辺のやり取りを横で聞いていた関谷はとても悔しそうでした。

でも彼は野球部のレギュラーなのでそう簡単に部活をサボる事は出来ません。

夕陽に照らされてちょっと淋しそうな顔でトータにさよならする関谷でした。


今まで誰かと喋るのが苦手で、いつも一人でいる事ばかり意識を向けていたトータ。

下校時でもそれは変わらず、例え誘われてもあっさり断って一人で帰るのが常でした。

クラスのみんなもそんなトータにあえて接触しようとはしませんでした。


それが小人さんの出現で状況がガラリと変わってしまったのです。

トータの方も小人さんの所為で朝から調子が狂いっぱなしで、今ではもう気分がとてもハイでみんなからの下校の誘いに文句一つ言いませんでした。


そして急に人気者になったトータは高校生活で初めて一人で帰らない下校を体験しました。

みんなとワイワイ楽しく話す帰り道…トータにとってそれは新鮮な感動でした。

いや、それはただ忘れてしまっていただけなのです。

小学生の頃、まだトータが幼かった頃に確かに味わっていたはずなのです。

少し大きくなっていつの間にか一人で居るのが当たり前になってしまっていただけなのです。


次の日からトータと小人さんは一緒に学校に行くようになりました。

そして初めはあまり喋れなかったトータも次第にクラスのみんなと小人さんを通して打ち解けられるようになって来ました。

そうしてトータは初めて学校が楽しいと思えるようになって来ました。


クラスのみんなも最初は小人さん目当てでトータの周りに集まって来ていたのですが、小人さんとやり取りするトータを見ていて、今まで何を考えているのか分からなかったトータの事を少しずつ理解し始め、最初からトータと話す為に集まる人も出てきました。


それから幾日か過ぎ、トータにも高校に入って初めて仲の良い友達と呼べるような人が何人か出来ました。

もう毎日の学校生活も味気ないものではなくなり、友達と何を話すかと言う事が一番の楽しみになってきていました。

その様子をまるで父親のような優しい眼差しで見つめる小人さんでした。


トータに友人が出来てしばらくしたある夜更け、トータの部屋で小人さんが一人トータの机の上で何かを待っていました。

しばらくして小さい影が一つ、小人さんの前に近付いていきました。

それはあの時目が覚めたトータに気付いて逃げ出した大勢の小人さんたちの中の一人でした。

そう、小人族の救援がやっとやってきたのです。


「隊長、もうそろそろ帰ってきて下さいませんか!」


「うん、そうだね」


「良かった、隊長が居ないと新しい旅も出来ませんからね」


「じゃあ行こうか」


「そんなにアッサリしていいんですか?」


「うん、その方がいいんだ」


短いやり取りの後、小人さんたちはそれがまるで予定通りだったかのように元の世界に帰っていきました。

その時、トータはいつものように夢の世界で遊んでいました。

小人さんが元の世界に戻ったなんてさっぱり気が付かないままぐっすり眠り続け、朝を迎えたのです。


目が覚めたトータはやけに静かなのが少し気になりました。

いつもなら小人さんが朝からやかましく話しかけてきていたからです。

だから、小人さんと一緒に生活するようになってから目覚まし時計が要らないようになっていました。

今朝はやけに静かなのが逆に気になってトータは少し早めに起きてしまったのです。


「ぉーぃ」


「何処に居るんだー?」


トータは小人さんに声をかけましたが、しかし返事はありませんでした。

当然です、小人さんはもう帰ってしまったのですから。

返事を待ち続けたトータはあんまり遅くなって親に急かされてしまいました。


「あれッ?もうこんな時間?」


親の声に気付いて時計を見るともう普段なら学校に行く時間でした。

トータは朝ごはんもそぞろに急いで支度を済ませ学校に向かいました。


教室に入るとクラス中がトータに注目しました。

もちろん殆どが小人さん目当てです。

しかし、トータの傍に昨日まで一緒にいた彼の姿はありませんでした。


「トータ、小人さんはどうしたんだよ?」


堰を切ったように喋り始めたのは関谷でした。

トータと関谷は今では気軽に話せる仲になっていました。

でも、今日のトータはそんな関谷に対しても普段のように気軽に返事を返す事は出来ませんでした。

しばらくの沈黙が続き、関谷は心配そうにトータの顔を覗き込みました。

トータはどう話していいか言葉を組み立てられずにいました。

でも、ずっと黙っている訳にもいかず、搾り出すように要点だけを伝える事にしました。


「…居なくなった…みたい」


そのトータの言葉にクラス中がざわめき始めました。

そんな中、小嶋さんが信じられないと言う顔でトータの前に出てきました。


「帰っちゃった?元の世界に…」


「分からない…でもそうかも…」


小嶋さんの質問にトータは搾り出すように答えました。

その淋しそうな表情にみんな静かになりました。


「まぁ、そう落ち込むなよ…」


平賀がトータに励ましの言葉をかけてくれました。

小人さんがいなくなったショックでうつむいていたトータでしたがこの言葉を受けて平賀の方を見上げました。

彼の優しい顔に少しだけ落ち着きを取り戻すトータでした。


「そうそう、どうせいつかはこう言う日が来るって分かってたんだしさ」


田辺も彼なりに励ましてくれました。

いつもイライラする田辺の口調も今回ばかりはとても慈愛のあるものに聞こえました。

その時、平賀が何か思いついたという顔でみんなに語りかけました。


「あ、今度みんなで遊びに行こうよ!気晴らしにさ」


彼のこの言葉に周りのみんな賛成しました。

そして急遽「トータを励ます会」が結成され、次の休みに遊園地に行く事が決まりました。


他のみんなもトータを心配して口々に励ましの言葉をかけてくれました。

それらを聞いてトータも段々いつもの彼に戻っていきました。

こんなにもみんなから思われていたと思うと嬉しくなって思わず涙が流れてきました。


「有難う、みんな!」


次の休日、トータはみんなと遊園地に遊びに行きました。

それまで人との接触を避け、孤独を通してきたトータが初めてプライベートで大勢の友達とともに楽しい時間を過ごしました。


この日を境にいつの間にかトータはクラスの中心的人物になって行きました。

よく笑うようになったし、自分から話しかけるようになりました。

それは昔の無愛想なトータからは信じられないような変化でした。


今になってトータは思うのです。

小人さんは自分をクラスに溶け込ませるようにする為にこの世界に留まったのではないかと。

そしてもしかしたらまた別の人の下で同じようにクラスに馴染めない人を励ましているのではないかと。


「隊長~、今度はここですかぁ」


「うん、みんなはもう帰っていいよ」


トータの読みは当たっていました。

小人さんは今はまた別の人の部屋で言いたい放題我侭を言っているようです。


「きっとあいつ、今頃どこかの部屋で別の誰かに我侭言っているんだろうなぁ…」


トータは空を見上げながら思い出し笑いをしました。

その視線の先には綺麗な夕焼けが見事に空を紅く染め上げているのでした。


(おわり)

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コビトさん(仮) にゃべ♪ @nyabech2016

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