第2話コビトさん(仮)~中編~

キンコーン…。

HRも終わって一時間目のまでの休憩時間。

トータは相変わらず一人きりです。

ネットゲームとはご無沙汰になったとは言え、代わりの時間を小人さんとのやり取りに費やしている為、現実世界での繋がりは今までと何等変わりありません。

クラスの誰かと話す事もなければ話しかけられる事もない、そんないつもの学校生活を続けていました。


しかも延々と続く小人さんの話し相手になっていたのでトータの睡眠時間はやっぱりそれまでとさほど変わってはいませんでした。

つまりは寝不足の日々は今も終わりを告げていなかったのです。


そんな訳でトータはいつものように机に突っ伏して短くも貴重な睡眠を取ろうとしていました。

その時です、周りがざわめき始めたのは!


「…ぉぃ、アレ…」

「うそ!?」

「ええッ!」

「マジかよ?」

「本物?」


トータは周りの雑音が自分の方に向けられているのを感じました。

普段ならクラスメイトの声なんてただの雑音にしか聞こえていなかったのに自分に注意が払われていると思うと何だか気になって仕方なくなりました。


トータは周りの声を注意深く聞く事にしました。

まずは今どういう状況なのか正確に判断しないといけません。

じっくりと様子を伺うトータ。

しかし、現実はトータをあまり長くその状態でいる事を許しませんでした。

なぜなら、あの聞きなれた生意気な声が彼の耳に入って来たからです。


「おい!みんなお前に注目してるぞ!寝ていてどうする!」


そう、それは小人さんでした。

朝見当たらなかったと思ったら何と学校にまで付いて来ていたのです。

元々体が小さい為にこっそり鞄の中に入って来ていたのでしょう。

ついに小人さんはみんなの前にその小さい姿を披露しました。


「だー!なんでお前がここにいるんだよ!」


「お前が毎日好き好んで出掛ける場所だ!興味を持って当然!」


「誰も好き好んでねーって!」


そのやり取りをクラスのみんなが注目していました。

トータは頭に血が上っていてスッカリその事を忘れてしまっていました。


「おおッ!喋ってる!」

「動いてる!」

「どうしたんだよそれ!」

「ねぇねぇ、名前は何て言うの?」

「てゆうか、これ現実?」


次々に喋り出だすクラスメイトたち、騒ぎはいっそう大きなものになりました。

そして、その瞬間トータはクラスの話題の中心にいました。

もっとも、注目されたのは小人さんの方でしたが。

あまりの突然の出来事にトータは恥ずかしくなって喋れなくなってしまいました。


「やあやあ皆さん、初めまして!」

「おおッ!スゲェ!」

「ロボット?…まさか本物?」

「ねぇねぇ、こっちおいで♪」

「こら、トータも何か言ってやりなさい!」


みんなが注目しているのをいい事に調子に乗る小人さん。

しかし、この注目されている状況で、トータはすっかり動転していました。


「何かって…」


小人さんの質問に思わず素で返す始末です。

そのやり取りに割り込んで入って来たのが我侭さではクラスでも1、2を争う関谷でした。


「トータなんてどうでもいいんだよ!俺はお前の事が知りたいの!」


「お前とは失礼な!」


「口の悪い小人だなぁ…」


関谷と小人さんが早速やりあいを始めました。

でも大喧嘩に発展する事にはなりませんでした。

そう、教室には女子のほぼ全員がここに集まって来ていたからです。


「何言ってんのよ!小人さんに失礼じゃない!」


「あー、そーかいそーかい」


関谷は鬱陶しいと言う顔をしながらその場を離れていきました。


そんなやり取りを挟みつつ、小人さんを中心に一斉に注目を浴びるトータ。

今までにない感覚が彼をとても不愉快な気持ちにさせるのにそう時間はかかりませんでした。


「あーもう!静かにしてくれよ!眠れやしない!」


「はぁ?この状況で眠ろうなんてする訳?」


トータのその言葉に何にでもすぐに突っ込みを入れたがる田辺がかみつきました。

田辺の突込みには誰だってイライラしてしまいます。

トータもその例に漏れませんでした。


「悪いかよ!毎日こいつの相手で寝不足なんだよ!」


「毎日?じゃあ前からお前んちにこいつがいたのか?」


「そうだよ!お陰でこっちは迷惑しっぱなしだよ!」


思わずトータは大きな声を出してしまいました。

普段から無口なトータがこれほどまでに大声を出すなんてとクラスメイト全員がびっくりするほどでした。

その興奮ぶりにクラスの誰もが真相を聞きたくなりました。

無口な少年をここまで変化させてしまった秘密が知りたくなったのです。

みんながゴクリと息を呑む中、副委員長の吉野さんがトータにその事を聞きました。


「どう言う事?良かったら詳しく話してくれない?」


トータは小人さんが自分の前に現れた経緯やそれからの事をみんなに話し始めました。

最初は誰も信じられない風な顔で聞いていましたが、目の前にいる小人さんの否定出来ない存在にただただ納得してしまうしかありませんでした。


「それじゃあトータもちょっとかわいそうだよなぁ」


「だろ?結構不幸なんだよ、俺は」


周りが小人さんに注目している中でトータの事を気にかけてくれる人も出てきました。

トータに同情したのは今までもたまにトータと話す事のあった平賀でした。

トータの心情を気にかけたくれた彼の言葉はトータを少し心強くさせてくれました。


「こんなに可愛い小人さんが一緒にいて普通は楽しいと思うけどなぁ」


「だからこいつ我侭なんだって!」


でも女子は相変わらず小人さんの容姿から全てを判断しています。

何も分かっていないその発言にトータは少しむきになってしまいました。


「小人さんはどう?トータに酷い事されてない?」


「んなッ!」


そのトータの返事を無視するように小人さんの事ばかり心配しているのはかわいいものハンターの小嶋さん。

今度は小人さんにトータの印象を聞いています。

あんまりないがしろにされたのでトータはちょっと憤慨しました。


「んー?良くもなく、かと言って悪くもなく…普通だな」

「普通?あのな、俺がどれだけ毎日苦労を…」


小人さんの返答は「普通」

その返事に昨日までの努力は何だったのだろう…こいつ何様?

とか考えるトータでした。

そんな二人のやり取りをよそに小嶋さんは目をキラキラ光らせながら早速アタックを開始します。


「ねぇねぇ、トータの家なんかより私んちに来ない?」


「嬉しいお誘いだけど、今あそこを動く訳にはいかないんだ」


「えー?どうしてぇ?私ならきっともっと大事にしてあげるよ。」


「仲間が迎えに来るからね、その時に自分が居ないと」


「そうなんだー?ざーんねん」


小嶋さんの交渉はあえなく決裂。

彼女はものすごく残念そうな、それでいてすごく恨めしそうな顔をトータに見せるのでした。

何だかその言葉にも出来ない迫力に思わず息を呑むトータです。


クラス中がトータと小人さんについて話している内にやがて一時間目を告げるチャイムが鳴りました。

みんな急いで自分の席について授業の準備を整えます。

トータは先生に小人さんの姿を見られないかとても心配になりましたが、小人さんはそんな事を気にする気配は全然なくて、むしろ堂々と机の上に立って初めて見る教室を嬉しそうに眺めているのでした。

ヤバイと思ったトータが小人さんを捕まえようとどんなに頑張ってもさらりと軽くかわしてしまいます。

トータと小人さんのバトルはしばらく続き、やがて教室に一時間目の数学の教師が教室に入って来ました。

トータはしまった!と思いました。

小人さんが大人の目に入ったら騒ぎがどれだけ大きくなるか分かりません。

でも教師は小人さんを目にしても普段と別に変わった風でもなく、いつものように授業を始めたのでした。


不思議な事に教師の目には小人さんの姿は見えていないようです。

それを確認して、ほっと一安心するトータでした。


「な!俺を否定するヤツに俺は見えないだろ?」


「いつ言ったよ、そんな事」


「今言ったじゃんか」


「…あー、はいはい」


「何だその返事は?馬鹿にしてるのか?」


「いーから、授業の邪魔だから喋んな。」


それからも小人さんはトータに色々話し掛けてきましたがトータは授業の間中それをずっと無視しました。

そのお陰で教師に何等不審がられる事も無く無事に1時間目をやり過ごす事が出来ました。


「なんでずっと無視してたんだよ」


「お前と喋るとなぁ、俺が危ない独り言野郎になっちまうだろ?」


「何だ、気にするなそんな事」


「お前に言われたくないわ!」


授業が終わったばかりだというのに早速二人はやり合っていました。

そして休み時間に入るとすぐにクラスのみんながトータの、いえ小人さんの周りに集まって来ました。


「なぁなぁ、さっきの話の続きをしようぜ?」


「うむうむ、君たちは何が知りたいのかね?」


(なーにが”知りたいのだね”だ)


トータは小人さんの普段とは違う口調に呆れました。

しかし、あっと言う間にクラスに溶け込んでいる小人さんが少し羨ましくも感じていました。


それからも同じように休み時間のたびにクラス中が小人さんの周りに集まり、普段とは180度違う楽しい会話の話題の中心にいると言う感覚をトータは味わいました。


(つづく)

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