コビトさん(仮)
にゃべ♪
第1話コビトさん(仮)~前編~
トータは高校一年生。
今の趣味は専らネットゲーム。
今日もまた徹夜でゲームをして授業は上の空。
学校が終わったらまっすぐ家に帰って電脳仲間に会いに行くのさ。
だから、普段の生活での彼はいつも一人。
それでもトータはそんな事全然気にしていません。
だってネットに繋がればそこに沢山の仲間がいるから。
そんなこんなで今日もまたネット中に寝落ち。
まぁそれもトータにとってはいつもの日常の何でもないヒトコマに過ぎませんでした。
うつらうつらと朦朧とする意識の中で沢山の小人さんたちを目にするまでは。
小人さんたちはトータの部屋で何かをしているようでした。
トータはそれを何をするでもなくボーっと眺めていました。
これは徹夜続きの時に表れる幻想なのだと自分に言い聞かせて。
その時、トータの頭に小人さんがぶつかりました。
幻なのだから痛くはないと思っていたトータでしたが、その衝撃は微かな痛みとなってトータの意識に働きかけました。
「えっ?!」
反射的に起きあがったトータ。
その瞬間、小人さんたちは急いで何処かに消えていきました。
しかしそれは霧が晴れるようにうっすらとぼやけていくように消えたのではなくて、何処か別の場所へ逃げていったみたいでした。
トータは早速その異世界の入り口を探してみました。
実在の存在の小人を確かめたかったのです。
あの感覚がただの錯覚でない事を祈って。
机の周りから戸棚、ベット、壁、部屋中をくまなく探しました。
しかし、トータの求めているそれは見つかりませんでした。
結局アレは夢だったのかと、トータはもう一度椅子に座りなおし溜息をつきました。
その時、壁の隅っこで何か影が動いたような気がしました。
まさか?と思いつつトータがその影を追うと…。
「あああっ!」
声を上げたのはさっきまでそこで大勢でたむろしていた小人さんたちの一人でした。
小人さんの目の前には光のゲートがありました。
彼はその光のゲート目指して走って来ていたようでした。
光のゲートは小人さんが入ろうとしたその瞬間に閉じられてしまいました。
そして、元に世界に帰れなくなった小人さんのその後ろ姿はとても淋しそうでした。
「えっと…」
トータは小人さんに声を掛けようとしたのですが、どう声を掛けていいものか分からず最初の一言の後は何も喋れなくなってしまいました。
何となく気まずい雰囲気がこの部屋を暫くの間支配しました。
「よ、よう!」
部屋の異様な雰囲気に気付いた小人さんはその場で降り返り、じっとその場を見守っていたトータに挨拶しました。
「や、やあ…帰れなくなったのかい?」
「これは恥ずかしい所を見られてしまったな…あはは」
「君たちはここで何を?」
「僕らはただ楽しんでいただけさ」
「楽しむ?」
小人さんの話によると、彼らにとって毎日はお祭りで知らない場所を訪れては歌ったり踊ったりして日々楽しく過ごすのが日課みたいなものだと言う事でした。
そして今日も彼らは仲間を大勢引き連れて初めて来たトータの家で宴会をしている真っ最中だったと言う訳です。
「なるほどなぁ」
「君が気付きさえしなければ全てはうまくいったのに…」
「…?…何で?」
「僕たちは人間に見つけられるとこの世界に同化してしまうんだ」
「そうなると帰れなくなるの?」
「そ!」
「でも他のみんなは帰れたんじゃない?単に君がトロいだけじゃん。」
トータのその言葉に小人さんはカチンときました。
そして冷ややかな表情でトータにこう言いました。
「…お前…。友達いないだろ…」
「いるよ、ネットの中に沢山。会った事はないけど」
「所詮仮想友達じゃないか、寂しい奴め」
小人さんは結構この世界を知っているようでした。
ネットゲームの事まで知っているみたいです。
しかしトータはその事よりも小人さんのその喋りぶりが気に入りませんでした。
「結構口悪いんだな、イメージ崩れた」
「勝手に人の性格決め付けんなよ!」
もうスッカリ喧嘩腰の二人。
普段ならここまで熱くならないトータですが、自分の趣味を否定されたような気がしてつい向きになってしまったのです。
小人さんの方も売り言葉に買い言葉、事態の収拾する気配はまったくありません。
トータは取り敢えず小人さんが何時までここにいるつもりか聞く事にしました。
「んで、あんたはこれから仲間の助けを待つのかい?」
「そうなるけど…救援がいつになるやら…。何せ適当に来たから、ここには」
「適当って、小人族ってアバウトなんだなぁ」
「うるへー!」
適当に来た…それがどういうものか具体的に知りたい気持ちもありましたが、この調子ではどうもまともに答えてくれそうにないのでその事は軽く流す事にしたトータでした。
小人さんとの一通りのやり取りを終えた後、ちょっとした間が空きました。
その時間を利用して二人はお互いに気持ちを落ち着かせました。
「そんな訳で助けが来るまで暫く厄介になるからな!」
「勝手に決めんなよ!」
「お前の所為だろうが!」
「お前って言うな!」
「とにかく、決めたからな!」
それからトータと小人さんの奇妙な共同生活が始まりました。
食事は小人さんの分も必要な為、少し多めによそっては親に見つからないように自分の部屋に持って来て食べました。
トイレもお風呂も寝る時も一緒です。
そして部屋には誰も近付けさせないように、しっかり鍵をかけるようになりました。
趣味のネットゲームも小人さんの事が気になってあまり集中出来なくなり、以前よりプレイ時間は短くなっていきました。
小人さんの方はと言えば、毎日があんまり退屈なものだからしょっちゅうトータに話しかけては暇を潰していました。
そんな小人さんを最初はわずらわしく感じていたトータでしたが、いつの間にか彼とのやり取りを楽しむようになって来ていました。
小人さんが話す彼らの世界の話は荒唐無稽のようでいて実は結構理にかなっていたりして突っ込みどころを探していたはずが結構興味深く耳を傾け、逆に真剣に聞き込んでしまっていたり。
トータもこの世界の話を小人さんに説明するのですが、小人さんの方は結構この世界に詳しいらしく、大抵の事はトータより詳しく知っていて、トータは驚くやらびっくりするやらでした。
そんなこんなで一週間が過ぎようとしていました。
奇妙な共同生活にも馴れ、二人が一緒にいるのは当たり前のようになってきていました。
そしてまたいつものように朝がやってきました。
「じゃあ、俺学校行ってくるから大人しくしてろよ!」
「お前がいない間退屈で死にそうだ、部屋からも出られないし」
「仕方ないだろ!お前が他の奴らに見つかったらパニックになるんだよ!」
「要するに、他のみんなにバレなきゃいいんだろ?」
「とにかく、騒いだら親に感づかれるから絶対静かにしてるんだぞ!いいな!」
「この部屋に一人きりで黙ったままでいられる訳ないだろ!」
「今までずっとちゃんと出来てたじゃないか!今日も同じにしてればいいの!じゃあな!」
トータはいつものように駄々をこねる小人さんの相手をしながら学校に行く支度をしていました。
全ての準備が整って部屋を出ようかとした時、振り返るとそこに小人さんの姿が見当たりませんでした。
「あれ?いつもならまだここにいて駄々こねてるのに…」
その場でぐるりと部屋を見渡すトータ。
やっぱり小人さんの姿は見当たりませんでした。
ただ、小人さんは小さいのでどこか家具の隅に入り込んだだけで、もう見つからなくなってしまいます。
トータは小人さんがすねてどっかに隠れたんじゃないかと思いました。
そして見当たらない事はあまり気にせずに学校に行く事にしました。
(つづく)
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