まずは、閲覧者には、作品の世界観を伝えたい。風の谷のナウシカ、ターンAガンダム。主役級の男が常人離れしているから、未来少年コナンか。いずれも老人が挙げる事例だから、若人には伝わらないかな。世紀末の雰囲気が良い塩梅で漂っているんですがねぇ。
そう言えば、世紀末物って、最近は見ないですね。21世紀の初めですからね。閉塞感に着目するならば、四半世紀前よりも現在の方が末法思想に染まりそうなものですが…。
そんな懐古趣味に染まった年配閲覧者には、本作品をお勧めします。
若い人には、どうだろう?
作品の"現在"に物語は始まり、章を重ねるに従い、過去のベールが剥がされていきます。そう、ミステリーっぽい展開をします。
また、この手の作品ではお約束事ですからネタバレにならないと思いますが、大団円で終わる事が読んでいて予想できるので、安心して読み進められます。この作品は途中のプロセスに面白さが凝縮されているのです。
加えて、先のレビュアーが指摘してますが、語彙力に優れた作者の紡ぐ押韻が文章を面白くしています。そして、登場人物達が奏でる浄歌。それらが相互作用して、抒情詩を形成しているのです。
だから…、若い子にも気に入ってもらえるでしょう。
西尾維新氏に影響を受けた作家は多く、カクヨムやライトノベル業界でも散見される。
しかし大抵の場合は氏の言葉遊びの部分の模倣に終始しており、世界観やストーリー、人物造詣と渾然一体となって初めて成り立つものだということに気が付かない。
『Rust ~錆び逝く物語~』の雪車町地蔵氏は、その関門をオリジナリティ溢れる完成度の高い世界観によってクリアしている。
SF。『錆』。この二つのエッセンスは、人間味が失われやすい言葉遊び重視の会話運びに、無機と有機の融合という概念を与える。
鉄は無機だが、風化する鉄は文明の名残を感じさせる。
浄歌士という概念も、旧き良きファンタジーの吟遊詩人のような印象を持たせつつ、世界を機械としてとらえたときのシステムとして無機性を保っている。
かくして『Rust ~錆び逝く物語~』において、言葉遊びはきちんと明白な方向性のある装置として機能している。鉄と錆。SFとファンタジー要素。
物語としての面白さはもちろんのこと、すべての創作者がそのアイデアと正当性を精査することの必要性を感じさせてくれる、非常に有意義な小説であると感じた。
この作品はまさに、SFであり、錆び逝くファンタジー。
読み終えた時、とても長い旅を終えたようなそんな心地いい満足感がありました。
独自の世界観や、個性豊かなキャラクターたちもさることながら、
何より魅力的なのは作者様の詩のように美しい言葉選び。
豊富な語彙だけでなく、文章のリズム、独特な言い回しがとても心地いいし癖になる。(アイネスの口癖であるDISLIKEは、特に!)
自分も物語を書く者として、大変刺激的でした!
長編SFですが、お話の設定は案外シンプルで筋が通っていてわかりやすい。
身構えることなく、馬車に揺られる気持ちで読める作品です。