融合と調和

西尾維新氏に影響を受けた作家は多く、カクヨムやライトノベル業界でも散見される。
しかし大抵の場合は氏の言葉遊びの部分の模倣に終始しており、世界観やストーリー、人物造詣と渾然一体となって初めて成り立つものだということに気が付かない。

『Rust ~錆び逝く物語~』の雪車町地蔵氏は、その関門をオリジナリティ溢れる完成度の高い世界観によってクリアしている。

SF。『錆』。この二つのエッセンスは、人間味が失われやすい言葉遊び重視の会話運びに、無機と有機の融合という概念を与える。
鉄は無機だが、風化する鉄は文明の名残を感じさせる。
浄歌士という概念も、旧き良きファンタジーの吟遊詩人のような印象を持たせつつ、世界を機械としてとらえたときのシステムとして無機性を保っている。

かくして『Rust ~錆び逝く物語~』において、言葉遊びはきちんと明白な方向性のある装置として機能している。鉄と錆。SFとファンタジー要素。

物語としての面白さはもちろんのこと、すべての創作者がそのアイデアと正当性を精査することの必要性を感じさせてくれる、非常に有意義な小説であると感じた。