懐かしき宇宙時代/眩々する様な不条理コメディ

 例えば、特定の文化や視点、生活様式を基とした倫理や誠実さは、汎的な物質社会において若干非合理的とも言えますから、文化の発展や融合の過程でそれらをオミットすることは自然ですし、そう長くはなく広くもない地球人類の歴史においても間々あったことです。
 そのまま合理性を突き詰めて不条理に行き着いてしまうことも、少なくはありません。

 物語の舞台は宇宙規模のブラック企業。
 他人事だから笑えるブラックジョーク、小気味良い説明過多、理不尽な権力を持つ上司、面倒臭い同僚、度々妙な思想に染まるロボット。
 不条理で命懸けの業務命令に翻弄される、閑職社員が主人公のコメディです。

 ダグラス・アダムス著『銀河ヒッチハイク・ガイド』に影響を受けたと明言ないし暗示している作家は、SFに限らず、ミステリやファンタジー、様々なジャンルに散らばっていますし、そこから更に下の世代へも連鎖的に影響を広げています。
 この小説は、ある種の1980年代海外SFが持っていたセンスや空気感を「同じジャンル」だからこそ、今の日本語圏にも合わせて磨き上げることのできた傑作です。

 章単位でエピソードが完結しているので、まずは1章『失われたライムタルトを求めて』を御一読ください。

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