少年が初めて外の世界に目を向けるとき、

河沿いの小さな里に住む少年コダは、首長の一人息子だ。
吝嗇で狭量な父と美しさを鼻にかけるばかりの母は、
コダに心地よい家など与えてくれず、彼はいつも満たされない。
人を人とも思わぬ乱暴なコダは、里でも孤立している。

そんなコダが、河のほとりで行き倒れの少年を拾った。
さしものコダとて、水神を畏れる心は持っている。
少年は水神の遣いではないのかと、彼は思ったのだ。
介抱の甲斐あって、緑の目を持つ少年は意識を取り戻す。

文章は繊細で美しく、淡々としつつも潤いがあって、
作品の根底にはどこか突き放すような非情さがある。
筆者のこうした作風が私はすごく好きだ。
久方ぶりに拝読したけれど、やはり惹かれる。

狭く貧しい里で友情も愛情も知らずに育った一人の少年が、
どことも知れぬ場所から流れ着いたもう一人の少年と、
初めて心を交わし、唐突に己の居場所を自覚するまで。
少年の成長あるいは開眼が、切なくも清々しい読後感をもたらす。