自己中心的で打算的な権力者の家に生まれ、暖かな感情を学ぶことができずにいた孤独な少年。川岸で倒れていた、名前すらわからず口を聞こうともしない少年。
明らかなのは、名も名乗らぬその少年の瞳が、鮮やかな緑色をしている、ということだけ。
ふとした偶然から出会った、深く心を閉ざした二人の少年。彼らが僅かずつお互いの心を通わせ始め、「相手を思う」ことを知っていく。そんな心の変化を丁寧に、静かに描き出した物語です。
誰にも心を開くことのなかった孤独な少年が、無反応に黙ったままの少年へ語りかけ、そのことで自ら心を開いていく。反応を返さない、という相手の態度が初めて安心感を与える。少年の心の動きは、複雑な人間の感情をとてもよく捉えており、物語の中へ読者を強く引き込んでいきます。
そして、冷淡だった少年の心が初めて暖かさを持った時、彼が自ら選んだ道とは——。
少年二人のその後に思いを馳せずにはいられない、深い魅力に溢れた作品です。
河沿いの小さな里に住む少年コダは、首長の一人息子だ。
吝嗇で狭量な父と美しさを鼻にかけるばかりの母は、
コダに心地よい家など与えてくれず、彼はいつも満たされない。
人を人とも思わぬ乱暴なコダは、里でも孤立している。
そんなコダが、河のほとりで行き倒れの少年を拾った。
さしものコダとて、水神を畏れる心は持っている。
少年は水神の遣いではないのかと、彼は思ったのだ。
介抱の甲斐あって、緑の目を持つ少年は意識を取り戻す。
文章は繊細で美しく、淡々としつつも潤いがあって、
作品の根底にはどこか突き放すような非情さがある。
筆者のこうした作風が私はすごく好きだ。
久方ぶりに拝読したけれど、やはり惹かれる。
狭く貧しい里で友情も愛情も知らずに育った一人の少年が、
どことも知れぬ場所から流れ着いたもう一人の少年と、
初めて心を交わし、唐突に己の居場所を自覚するまで。
少年の成長あるいは開眼が、切なくも清々しい読後感をもたらす。