正義も栄光もこの物語に出番は無い。
登場するのは日々をどうにか生き延びるための小銭を稼ぎ、酒とカードゲームを愛するごろつき勇者と強大な力のために人間性を捨てた魔王、そして厄介事のパレードで先頭を切る見習い勇者達。
どこ見てもマトモな奴がいない。
当たり前だ。
なんせ勇者なんて魔王を僭称する人間を殺すだけの仕事だ。
そんなものをやってる奴にマトモな人間はいない。
だがマトモじゃない彼らにはマトモしゃない魅力がある。
ニヒルでスパイスの効いたやり取り、そして確かな現実味をもつ強敵との戦闘シーンは、登場人物達を確固たる個性を持つ一人の人間として幻視させる。
暴力と超自然的な力をもたらすE3に狂った東京で紡がれる死神ヤシロの勇者譚。
ニヤリと不敵に笑うに最適な最低限の善意をあなたも是非。
こんなタイトルつけるから皆んな読まないんだよ・・たく
賞金稼ぎ・・・ウエスタンじゃないな。
隠密・・・って、公儀無いしいつだよそれ。
流れ者・・・家あるし。
ヤクザ狩り・・・任侠かよ。
悪魔狩り・・・近いけどサーガじゃねーぞ。
シティーハンター・・・って、ベンチにゃ座らねぇしドンパチより剣技だな。
JKだって出てるんだぞ、キャピキャピなんかしてねーよ!ウザいしDQNぽい忍者みたく・・・
円卓の騎士なんか出ないけど居るんだよそんなんが、悲哀だって在るぞ!
とにかくハードボイルドなんだよ、どこが!
とにかく読めば解るよ、
やっぱ勇者か・・・クズでいいや!
やめられなくなるぜ
この作品は、世界を救う勇者のお話ではない。
悪党からは金を巻き上げ、必要とあらば車を奪い、ピザとビールとカードゲームを善なるものと定義する。そんな王道勇者サマとは一線を画するなんて表現じゃ生ぬるい、まさしく『勇者のクズ』と言える主人公のお話です。
勇者モノなのにそんな主人公で面白いの?と思った人も、またクズ勇者系かよと思った人も、きっといるでしょう。
これが面白いんです。この主人公、ヤシロは確かにクズで、言動がとても小物臭い。まず冒頭から金がないとぼやいてる。そんなヤシロが見せる、一種の誇りとも言えるモノがすごいグッと来るんです。この作品は、登場キャラに芯がある。命がある。詳しくは語りたくありません。この感動を、これを読んだ人に是非感じて欲しいと思います。
面白い小説。
一国一城の主という言葉が矮小化され、「一軒家を買った人」程度の意味に落とされてから、もう数十年か経つ。
かつて、特異体質による極めて珍しい存在だった勇者や魔王は、薬物や人体改造によって量産されるようになった。
「勇者として生まれる」のではなく、自らの意思で「勇者になる」、つまり人殺しになる者は、そういった性向を持つ者になるし、勇者として生き残る者は相応の力か性格を持つ者になる。
その両方を持つのは、大抵クズだ。
なるほど、この時代において、「勇者はクズ」である。
そんなクズの主人公の下に、性根の腐っていない(※頭はおかしいにせよ)、未だクズではない、勇者見習いの少女らが弟子として転がり込んでくる。
基本的に、クズではない者が勇者になることが無かった所に、クズではない勇者が育つとなると、将来的にそこには「勇者」と「勇者のクズ」が生まれる。
物語が「勇者のクズ」という枠組みを産み出す過程であるから、経緯に対して誠実な描写や設定が行われているのだ。だから、あらゆる背景が展開と人物、世界にリアリティを与える。
テンプレートをテンプレートと嘯かず、例えば「やたら独白の多い一人称主人公」という要素にすら理由を与える。
それが序盤からクライマックスまで読者を惹き付ける。
あとキャラが可愛い。