軽妙な会話と荒んだ設定、作り込まれたロストフューチャー・アクション

面白い小説。

 一国一城の主という言葉が矮小化され、「一軒家を買った人」程度の意味に落とされてから、もう数十年か経つ。
 かつて、特異体質による極めて珍しい存在だった勇者や魔王は、薬物や人体改造によって量産されるようになった。
「勇者として生まれる」のではなく、自らの意思で「勇者になる」、つまり人殺しになる者は、そういった性向を持つ者になるし、勇者として生き残る者は相応の力か性格を持つ者になる。
 その両方を持つのは、大抵クズだ。
 なるほど、この時代において、「勇者はクズ」である。

 そんなクズの主人公の下に、性根の腐っていない(※頭はおかしいにせよ)、未だクズではない、勇者見習いの少女らが弟子として転がり込んでくる。
 基本的に、クズではない者が勇者になることが無かった所に、クズではない勇者が育つとなると、将来的にそこには「勇者」と「勇者のクズ」が生まれる。

 物語が「勇者のクズ」という枠組みを産み出す過程であるから、経緯に対して誠実な描写や設定が行われているのだ。だから、あらゆる背景が展開と人物、世界にリアリティを与える。
 テンプレートをテンプレートと嘯かず、例えば「やたら独白の多い一人称主人公」という要素にすら理由を与える。
 それが序盤からクライマックスまで読者を惹き付ける。

 あとキャラが可愛い。

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