愛すべきクズどもの物語

「勇者なのにクズとはこれ如何に?」

 タイトルからかなりインパクトのある本作は、エーテル能力という超能力的な力を目覚めさせる手術が一般化した日本の現代社会が舞台となっている。
 そこでエーテル能力を悪用する人間が魔王と呼ばれ、それを倒すエーテル能力者が勇者と呼ばれる。
 大まかな設定はそんな感じだ。

 主人公は勇者サイドの人間なのだが、タイトル通り正統派の勇者をしていない。金欠で銭ゲバで、魔王以外でも邪魔する奴はあっさりと殺す。仕事が無いときは知人の店でツケでビールを飲んでピザを食い、カードゲームで仲間と賭け事に興じる真性のクズである。

 しかし、こいつが最高にイカしているのだ。

 主人公のエーテル能力は近接戦では無類の強さだが、絶対無敵の能力ではない。それを話術と機転、そして観察力で補うところは巷に溢れるチートごり押しの作品群とは一線を画している。

 誰かに助けを求められたら、皮肉たっぷりに煽りながらもなんだかんだで助けるところには、ギリギリのラインで何とか《善なる世界》に踏み止まっている感が滲み出て、その危うさが主人公の魅力を一層引き立てる。

 そんな主人公の仲間も基本的にクズだが、クズ同士の友情にも似た緩い連帯感は往年のアウトロー映画などを彷彿とさせる。ギリギリの人間同士がどん底に堕ちないためにささやかな日常を楽しむ姿は胸にグッと来るものがある。

 ヒロイン枠(?)に当たる主人公の弟子三人娘は、ウザい・小動物・お嬢様の三点セット。無くてもいいが有ると味が一層引き立つタバスコのような存在感。

 カクヨムでは古典に入る作品だが、最近の最強やチートに飽き飽きしてる読み手には是非とも読んでいただきたい。きっと新鮮な気持ちで読めるはずだ。

 ただ、この作品を読む上で一つだけ気を付けないといけないことがある。


 それは、この作品を読んでいると猛烈にビールとピザが欲しくなってくるということだ。