チンピラによる勇気と希望の物語

「勇者なんて、最低のクズがやる商売だ」ーー主人公・ヤシロは事ある毎にそう口にする。勇者でありながら《死神》などという縁起でもない二つ名を持ち、常にドライでシビアな価値観で物事を捉える割に、少年のような青臭さを捨てきれない男。その青臭さは彼の言うクズ以下の存在に堕ちない為の線引きでもある。血生臭い抗争の最中でも、ヤシロがその矜持を手放す事は無い。それが意味する所は、なし崩し的に三人の弟子を取るに至り、嫌々ながら成長を助ける過程において、彼自身も自覚していく事となる。
だからこれは、現代の勇者譚である。例え過剰な暴力で武装したヤクザとチンピラの抗争の体を成していても、根底を流れるテーマは古式ゆかしい御伽話と通じている。即ち勇気と希望の物語だ。生き馬の目を抜く勇者業界にあって、それらを胸に戦い抜く事にどのような覚悟が、あるいは狂気が必要なのか。ヤシロの言う「クズ以下」に堕せば、もっと簡単に安全に世を渡って行ける事だろう。だからこそ、悪態を付きながらも自身の設定した最低限を護り抜く彼らの戦いは心を打つのだ。

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勇者のクズ