第20話

 もう眠るのは怖くない。

 その夜は久しぶりにぐっすりと眠り、目が覚めたのは土曜日の夕方だった。

「うーん」

 立ち上がり思いっきり背伸びをする。

 なんだかスッキリしている。もうすぐ、死ぬというのに。


 ――それにしても

 姉が死ぬ夢を見てからどれくらいたっただろう

 ずっと長い夢を見ている気がする

 いつ覚めるとも分からない悪夢の中を泳いでいるような感覚

 全てが夢で

 目が覚めたら姉と姪がランドセルの色でもめていて

 母はお花見弁当を作っていて

 父は相変わらずどこにいるのか分からなくて……


 涙がこぼれた。

 しかし、泣いている暇はない。私が死んだら、後片付けをしてくれるのは義兄しかいないのだ。

 あの夢は月曜日だったから、あと一日と少し。その間に、死後迷惑をかけないように身辺を片付けておかなくてはならない。

 写真や手紙、衣服を分かりやすいようにきっちり分けておく。

 遺書を残そうかとも思ったが、やめた。

『殺される夢を見たので、これを書いています』と書いても誰も信じてくれないだろう。

 死んでまで、人に心配や迷惑をかけたくない。

 きっちりと、しかし不自然ではない程度に身辺を整理した。

「あと一日か……」

 もう夢は怖くない、今夜もぐっすり眠れそうだ。布団に入ってすぐに睡魔が襲ってきた。

 眠りにつく間際、なにかが心に引っかかった。

 今まで見た夢と、自分が死ぬ夢の決定的に違う部分。そのことに気付く前に、深い眠りに落ちていった。


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