第48話 姉妹


「あんたがセルタ?」

 降って来た言葉は思いの外静かで、不思議と通る声だった。

 セルタは何も答えない。

 いや、応えることが出来なかったのだ。

 暗雲すらも照らす眩い輝きと満身創痍の姿。

 炯々たる光を放った瞳からの威圧感は尋常ではない。圧倒的な存在感の前に、格の違いを強制的に刻み付けられる。

 傍にいるだけのおれですらそうなのだから、セルタが受けた重圧は比ではないだろう。

 フローラはその一切を押さえつけず、叩き付けるようにセルタに浴びせていた。

「どうなの?」

「…そう、です」

「そ。なら、よかった」

 全身から冷や汗が噴き出した。

 赤い光が輝きを増す。ヴァイザー越しに見えていたフローラの姿が莫大な光量を前に消えた。それが意味することは理解できたが、まさかここまで容赦がないとは…!

 セルタに手を伸ばす。

 せめて盾になろうとしたが、それも無意味だった。

 赤い光が突如消えたのだ。

「テツオ、逃げて……!」

 セルタは頭上に手を掲げている。

 何が起こったのかはわかったが、なにをしたのかわからない。こうして間近に見て、改めてセルタの異常性がわかった。

 フローラですら、目を見開いている。

「テツオっ!」

 カレンの声。

 突然、青い光が視界に現れた。と思った時にはカレンの顔が目の前にあり、抱きかかえられてその場から飛び立っていた。

 止める間もない。

 エリスを置き去りにしたまま、おれはあかつき丸の甲板に降ろされた。

「大丈夫なのっ? 生きてるっ?」

 カレンの切迫した声に面食らう。

 顔を覆うヴァイザーのせいでおれの容体が確認できないらしい。カレンが何事か呼びかけてくるのを、慌てて手を上げて制した。

「大丈夫、大丈夫だ! 生きてるから、痛みもないって!」

「意識はあるみたいね。…本当に、馬鹿。あんな無茶してどうすんのよ」

「しょうがないだろ。思わずやっちまったんだから」

「あんたって思った以上に馬鹿なんだね。ほら、今治してあげるから」

 青い光が身体に広がっていく。

 爽快感が広がり、疲労感やけだるさが一瞬で消えた。思考がクリアになっていく。生命維持活動に振り向けられていた鎧の機能が正常に戻る。自己修復機能も作動した。

 カレンに礼を言おうとしたが、彼女の表情は険しいままだった。

「どうした?」

「ごめん、あたしじゃ脚までは無理みたい。でも、エリスならなんとか」

「私はやりませんから」

 いつの間に現れたのか。

 緑の光を纏ったエリスがそばに立っていた。おれを見下ろす視線は冷たい。その冷たさが、更におれの思考を冷静にした。

周囲には他の面子がいない。けれど鎧のセンサーがあかつき丸内部で高い熱源反応を感知している。おそらくはいつでも発着できるように戦闘機ももどきが発着できるようにスタンバっているのだろう。証拠に感知した熱源の一つはスティーブの鎧の反応があった。

 どうやらフローラについては静観するつもりらしい。

「ちょっと。人命救助はあんたの役割でしょ」 

「意識はあるんでしょう? 止血も済んでるみたいだし、後で治してあげますから。今は、邪魔しないでほしいんです」

 わかりましたね、とエリスは言う。

 上から目線が気になったが、概ね同意見だった。脚の痛みは相変わらずないし、カレンのお陰で体調もすこぶるいい。この状態なら足がなくても何も問題がない。

 そもそもの話、あの姉妹の会話におれ達が入る余地はない。

 今も無言で向かい合う彼女達がどういう道を選ぶのか。

 その答えを待つしかないのだ。

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異世界派遣~就活失敗したせいで命がけで美少女を救うことになった~ 折口 平 @kuroda3743

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