夏が過ぎ 熱々の中華鍋から一品を

まずは一口食べてみてください。

出来たて熱々の一口に、胃の中にじわっと熱が広がり肩の力が抜けるあの感じ。
出来たて熱々の一口に、吹き出す汗と燃える体に我を忘れてかき込むあの感じ。

あの感じ、いいよね。

この物語もあの感じだ。
もう一口と進める手が止まらなくなるだろう。

たまには箸休めと甘味に頬を緩ませたり、苦くて酸っぱい味に顔をしかめる時もあるかもしれない。
中華料理は火力とスピード勝負。物語も軽快に、勢い良く食べ進めることが出来る。
なにしろ隠し味は、長い年月練り込んだ仙人と妖怪と……これ以上は貴方の舌で。

酸いも甘いも口一杯に頬張れば、次の視線は料理の先の、彼や彼女に向かって行く。
鍋を振るう腕、料理を運ぶ足、注文をとる声、お辞儀をする笑顔。
そこには料理と同じくらい沢山の熱いものが詰まっていて、貴方はもっと暖かく、時に熱くなるはずだ。

美味しい物を食べた後は、お腹が暖かくなった後は、眠くなってくる。
そして寝て起きたら、また一日頑張ろうと始められるだろう。

誰かがゆっくり眠るため、今日も中華鍋は熱くなる。

その他のおすすめレビュー

彼岸明さんの他のおすすめレビュー5