第2話 7:45のハチ公口
スマホの時計に目をやる。
渋谷に着く前、電車に乗っている時から何度も繰り返している。
スマホの画面を見ては周りを見渡し、何かないかと探してみる。
だが、これといったものは見つからない。
そして、あの時刻があと1分となった時、僕は交差点の向こうにあるTSUTAYAの文字を見つめていた。
ガラス張りの窓の上に描かれているあの文字を見つめている。
指示通りの動きをしていた。誘拐犯の指示に従っている自分に情けなさを感じてはいるものの、仕方ない。今は、それしか娘を助け出す方法は思いつかない。
その時間は異様に長く感じられた。
多分、スマホの時刻は7:45を示しているだろう。
しかし、それは確認しない。この1分間、TSUTAYAの文字から目を離すわけにはいかないと思ったからだ。
肩と肩が当たった感覚がする。
スクランブル交差点の信号が青に変わったのだろう。
無理もない。人の行き来が激しいところに棒立ちしているのだから。
人の往来が止まった。それとほぼ同時に車の走り去る音が聞こえる。
信号が赤になったのだろう。
長く、長く、青だった気がする。実際にそんなはずはないのだが。
それと同時に手に握っていたスマホに振動が来た。
スマホを開く。時刻は7:46分。あの時間から、1分が過ぎ去っている。
そして、1件のメールの着信。知らないメールアドレス。
普段なら無視をするかもしれない。だが、今は開くしかない。
怒り、焦り、悲しみ、様々な感情が交錯しながらメールを開いた。
「シジドオリ カクニン。 ツギハ 10ジ20フン ピンク ノ フク ヲ ジョウゲ ニ キテ コノ バショヘ。
アト ルール、
1 メール ニハ ヘンシン シナイ
2 ケイサツ ニ イワナイ
3 シジドオリ ニ スレバ ムスメ ハ カエス」
狂ってる。
頭のなかに浮かんだのはその文字だ。
怒りを抑えながら、冷静を保とうと必死でいた。
僕は、従うしかないのだろうか?
だが、今は娘のことが最優先ではある。
ピンクの服、どこにいけばあるだろうか?
とにかく今は探すしかない。
そして、彼はハチ公から出て行った。
渋谷 ハチ公口 アレジン @akumu
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