渋谷 ハチ公口

アレジン

第1話 7:30のハチ公口

ハチ公口は、人で溢れている。

スマホをいじりながら待ち合わせをする人であったり、人ごみを搔き分けて足早に歩く人、自撮り棒を片手に持ちスクランブル交差点を背に動画を取る外国人、それぞれが合わさって、この騒がしさを形成している。


僕は多分、その中でも異質だろう。スマホを片手に右往左往しながら人ごみを掻き分けているのだから。

スマホの時刻は7:30となっている。

あと、15分。それがアイツからの指定された時刻だ。


「7ジ45フン ニ シブヤ ノ ハチコウグチヒロバ デ TSUTAYA ヲ ミロ」


朝、新聞とともにポストの中に入っていた紙である。

イタズラだろうか、嫌がらせか、とにかく気味の悪い手紙である。

しかし私はその5分後、6:20にその紙の送り主の真意に気付くことになる。


娘がいなかった。

娘の寝ていたベッドには代わりにカタカナで書かれた紙が置いてある。

「ムスメ ヲ アズカッタ。

 ケイサツ ニハ イウナ。 シジ ニ シタガエバ カエス」

すぐには文面を理解できなかった。

しかし、この状況、この手紙から考えて一つの答えを導き出した。


誘拐。


今、それが自身の身に起きているのである。

妻が出ていき、男手一つで育ててきた娘が誘拐された。


そこからの僕の行動は早かった。

財布、2枚の紙、スマホだけを持ち朝の渋谷へと向かった。


 

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