前半では退廃的な世界が描かれる。時にドキッ‼︎と驚愕するようなシーンもある。ウキウキはしないけど、不思議と嫌悪感も抱かない。
あなたも読み始めると同意してくれると思うが、「作者が如何なる結末で勝負を挑んでくるのか⁈」に期待を膨らませてしまうのだ。読ませる作品だと思う。
その結末には賛否両論あるだろう。
私は「SFだもんな」と妙に納得した。このニュアンスが閲覧者に上手く伝わらないとも思うが、「行き着く先まで辿り着いた世界って、こうだよな」と、まぁ冷静に読了した。
考えてみると、この手の作品は書き上げるのが難しい。作者が狂人でなければ新世界を描けないだろうし、仮に狂人だったら凡人の読者に作品を理解されないだろう。そう言う意味で凄く挑戦的な作品だと思った。
将棋で人間を下したり、お店でペッパーくんが客と会話していたり、自動車の自動運転が実用化の段階に入ったりと日々進歩を続けるAI。
しかし、進歩によってAIによって仕事が奪われてしまうという問題も。
そして、本作の舞台は今より少し先の、AIが芸術の分野でも人間を超えてしまった近未来。
あらゆる芸術作品を生み出す機械知性――
カリス・プロジェクトの誕生によって、多くの藝術家は仕事を失った。
一部の藝術家はカリスを超える作品を作ろうと、倫理の壁を無視して機械には再現不能な作品を作ろうともがき足搔く。
そして、そんな藝術家のひとりであるスナドリ・リヒカは、この世界に多大な影響を与える、ある作品を発表しようとするのだが……。
機械によって藝術家の存在が意味を失った世界という設定も刺激的ならば、藝術家たちが、クローン技術や人体拡張、違法薬物を利用して生み出す様々な芸術品も非常に刺激的。
だが何より強烈なのは、本作の最大の謎であり、作品全体のテーマにも直結する、スナドリが作った作品。
この作品を通じて彼女が導き出す答えは、世界の新たな真理か、それともただの妄想か。
それは是非読者に直接読んで判断してもらいたい。
(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=柿崎 憲)
ぼくはこの作品の世界観、作風が嫌いだ。残酷極まりなく物事が進み冷徹で君の悪い登場人物たち。丁寧に文字に起こされた世界は脳のなかで鮮明に映像化される。ぼくが星3をつけたのは逃げ出そうと、作品を読まないという選択肢をこの作品はさせなかったからである。
世界観の魅力や技法はここでは語らない。それが知りたければ他の人のレビューを見てほしい。
一番の魅力はこの作品の世界に無理やり引きずりこもうとする作者の丁寧な作品作りにある。物語のほとんどは品評会の会場で進むがそこに現れる人、物、芸術作品、装置、装飾すべてが歪な世界観を構築している。品評会の外に飛び出してもそれは変わらず、不気味さを引きずりながら終結に向かって歩かせる。あの世界観は少しでも違和感を感じさせてしまうと一気にチープに見え薄っぺらいものになってしまうがそんなことは一切なかった。現れたすべてが世界観を構築する役割を演じきった。だからぼくは最後まで読むことができた。
本当に丁寧に作られた作品である。人を選ぶ作品だろう。しかし君がその世界に入ることを拒否しなければ読み進めることができる。どうかこの世界観を咀嚼してほしい。
ターミネーターのような派手なアクションはない。
だが、この作品が描くのは、
機械が反逆し、人間を殺そうと試みる未来よりも、
もっと恐ろしい世界。
人間が人間である証明の一つ。それは創造性である。
だが、機械が創造性を持ったら?
機械が芸術を理解したら、機械が芸術を作り出したら、
人間はどうなる?人間が人間だと、どうやって証明できる?
この世界では、
芸術とは電気信号や色素の組み合わせのような、
無意味で空虚な存在になり、
人間の持つ創造性が徹底的に貶められる。
人間が、その魂を殺されようとしている。
その世界で、人間が生きようとしている。
欲深く、嫉妬深く、愚鈍で劣った存在の人間が。
創造力だけを武器にして。