エピローグ

 あの戦いから一年と少しがたった。病室の窓の外には寒々とした空が広がり、地面にも溶け残った雪がまだ残っている。本州では桜が咲いたり散ったりする時期だけど、この北国に桜前線がやってくるのはまだ1ヶ月以上も先になる。それを待たずにわたしは今日、この街を旅立とうとしている。


 わたしは今年から奨励会に入って、プロ棋士を目指しながら東京の大学に通うことになった。ふーちゃんも同じ東京で、塚本先輩と同じ大学に通う。杏ちゃんは仙台の大学だし、そうそう、垂井は大学を全部落ちて、札幌で浪人することになったらしい。

 みんなバラバラになっちゃうんだな、と、一人この街に残らざるをえない、桂太の顔を見つめながら思った。あの時からまったく変わらない顔で、静かに眠りについている。


 桂太が大魔導師ドーキンと一緒に封印されて、わたしはすぐに桂太の実家に行き、桂太のお母さんと一緒に扉をこじ開けて救急車を呼んだ。

 それでも、いや、思った通り、桂太の意識は戻らず、あれからずっとここで眠りについたままだった。


 一方魔法の国はというと、首謀者のドラッケン伯爵は爵位を剥奪されて投獄されたけれど、魔導評議会ではドーキンの処遇を巡って喧々諤々の大論争になった。

 再び封印をやり直すべきだという強硬派もいたが、そのためには守護魔導師を一度に七人も人柱として失わざるを得ず、また、わたしが「そんなことになったら自分が封印をこじ開ける」と言い出したのでお流れになり、とりあえず簡易的な封印をすることで話がまとまった。

 その封印が有効なのは4年間。それは逆に言えば4年後に再びわたしがあのドーキンと戦い、勝たなければならないということだ。


 あの時は赤子の手をひねるように負かされてしまったけれど、あれから一年たってわたしは大分強くなった。あと三年あれば、きっとドーキンに勝てるようになっているはず。

(いや、そうじゃない)

 わたしは、眠ったままの桂太の手を両手で握りしめた。きっと、じゃない。絶対に勝って、桂太を取り戻すんだ。

「待ってて桂太。わたしがあなたを助けだして見せるから」

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魔法を使って将棋を指したらダメだなんて誰が決めたの? いそのたかみ @isonotakami

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