幻想的な風景の中で『普通』の少女の姿が浮かび上がる

 短いお話ですが、魅力がぎゅっと濃縮されています。頭に次々と浮かぶ映像に魅せられ、どんどん作品世界の中に惹き込まれていきます。

 主人公の少女の揺れ動く気持ちは、かつて女子中高生だった私にも覚えのあるものでした。少女だったことのあるひとびとにとってはとても共感しやすい恋心ではないでしょうか。
 ただ、次の恋をしようと思った相手が、普通の人間ではなかった、というだけです。
 丁寧に描写された神社の景色の中、少女が人ならざる者と愛を育む様子は、非常に幻想的で、美しく、どうにかして絵にしたいくらいです。わ、私に画才があれば……!
 でも、読み手は思い思いの神社の境内を脳裏に描くかもしれません。ふと振り返れば、どこにでもありそうな。ちょっとしたところ、すぐ傍にある異世界を垣間見せていただいた感覚です。
 この作品に描かれた美しい世界は、読み手の心の中にある美しい思い出と重なるもの。それを、文章で丁寧に掘り返し、形にしてくださった。そんな印象の作品でした。

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