生者と死者…絶妙の距離感から生まれる、愛と人生の価値への問いかけ

探偵モノに憑依霊を持ち込むという発想。そこから導かれた、追い詰めるべき犯人への遠い道のりを予感させるストーリー。
物語全体の終着点へのゆっくりとした歩みと、目の前の事件の解決に向けた短いサイクルの調和が、読むものを飽きさせるとこのない見事な長編を生み出す要素を備えた期待高まるこの作品。

その第一作は本格ミステリーの雰囲気漂うクローズドサークルもので、1人、また1人と犯人の魔の手に落ちる王道の展開。
ただ、本格ミステリーを期待して本作品を読むと若干肩透かしを食らった気分を味わうかもしれません。
提示される証拠が明らかに少ないため、犯人を推測するまでなら可能ですが、じっくり推理することで「犯人はこの人しかあり得ない」と限定できる条件は整っていません。
提示される証拠の少なさは、一方でこの小説を非常に読みやすいものに仕上げる効果を発揮しています。
推理モノとしてのこの小説の楽しみ方は、読みながら何となく犯人とトリックの当たりをつけ、そのまま一気に解答編まで読み進めて伏線回収の手際を鑑賞するくらいの姿勢で臨むのが丁度よいのではないでしょうか。

この作品の最大の魅力は、設定を生かしたドラマ性だと思います。
決して直接触れ合うことのできない2人が交わす真心に満ちたやり取り、生きるということの尊さ……人生における恒久的な価値をストレートにぶつけて読む者の心を揺さぶる描写は、同じ作者様の小説である「名探偵への道」にも通じる作風です。

万人にとって大切なテーマを孕みつつ適度な知的刺激の散りばめられたこの作品は、さらりとした読み味ながらも込められた想いが読後の胸に響く心地よい作品です。

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