俺とレイ

36 これから......

「......あれ?」

 俺は目を覚ました。

「森繁さん、気がつきましたか」

 傍には鵜飼と黒峰がいた。

「鵜飼さん、黒峰さん」

 俺は身体を起こした。

「森繁さん、無理はしなくていいですよ」

「いえ、大丈夫です」

 俺はスクッと立ち上がり、身体を伸ばし始めた。鉛のように重かった身体が嘘のように軽い。

「どこか変なところはありますか?」

「いえ、全くありません」

「それはよかった」

 俺は辺りを見渡すが、人数が少ないことに気付いた。

「あれ? 他のみんなは? 間宮さんや織斑に--」

 自殺しようとした鈴木。

「っ! 鈴木さんは!?」

 鈴木の姿が見えない。まさか......。

「大丈夫です。鈴木さんも無事です」

「そうですか」

 ホッと胸を撫で下ろす。

「じゃあ、どこに?」

「間宮さん達と先に山を下りました。自首するために」

 鵜飼は俺が倒れたあとのことを説明した。

 あのあと鈴木は毒を捨てたという。そして自首することを告げ、付いてきて欲しいと。そのために間宮と織斑が先に共に館を出た、と。

「あと、鈴木から伝言があるわ。目が覚めたら伝えてくれって」

 黒峰が言ってきた。

「伝言?」

「あなたと、それから風神レイに」

「俺と......レイに?」

「こう言ってたわ」

 

『森繁さん、ご迷惑をおかけしました。あなたとレイさんのおかげで、私もう一度やり直そうと思います。お二人の言葉に打たれました。森繁さん、ありがとうございます。

 それからレイさん、ごめんなさい。レイさんの言ったこと、私忘れません。こう言うのも変かもしれませんが、幽霊のレイさんから命の大切さを直に感じ取れたように思います。だから最後まで生きていきたいと思います。あなたに怒られないような生き方を。レイさん、本当にありがとうございます』


「そんなことを......」

「鈴木さんは感謝していましたよ」

「いや、そんな」

「でも、まさか本当に幽霊に憑りつかれていたなんてね」

「あれ? 信じてくれていたんじゃなかったんですか?」

「信じていたわよ。でも、乗り移られるなんて話も聞いてなかったわよ?」

「いや、俺も初めての経験でしたから」

「あら、そうなの? でも......」

「でも?」

「女口調のあなた、気持ち悪かったわよ」

「それは仕方ないでしょうよ!? レイは女の幽霊なんですから!」

「それでもあれはないわ。吐きそうだったわ」

「そこまで!? いや、もうそこには触れないで下さい」

「まるで変態だったわ」

「聞けよ!」

「まあまあ、二人とも」

 笑顔で止めに入る鵜飼。

「さて、森繁さんも目を覚まし、体調も問題なさそうなので私達も山を下りますか」

「そうですね」

 そして俺達は帰り支度を済まし、玄関から館を出た。



 辺りは草木で散らかっていたが、昨日までとはうって代わり、眩しいくらいの日の光が降り注いでいた。

 鵜飼と黒峰は先に歩いており、俺は少し離れて付いていった。

「レイ」

 俺が声をかけるとレイはすぐに姿を現した。

「やっと終わったな」

 レイが頷いた。その顔は晴れやかだ。

「なあレイ」

 なあに? というように振り向くレイ。

「俺、帰ったらやりたいことが出来たんだけど、協力してくれるか?」

 何を? というように首を傾げるレイ。

「お前を先生に会わせたい」

 レイは目を見開いて驚いた。

「お前に戻った唯一の記憶だからな。もしかしたら、先生に会えばまた記憶が戻るかもしれない。それに......」

 一呼吸入れてから俺はまた話始めた。

「お前の夢を持たせた先生がどんな人か俺も興味持っちまった。それに、先生にもお前がどんな風になっているか教えてやりたい。もちろん、幽霊のことじゃないぞ? お前がどんなに努力していたかとか、どんな考えの持ち主になったのかとかを伝えてやりたい。駄目か?」

 少し考えてからレイは笑顔で頷いた。

「よし、帰ったら早速先生が今どこにいるか調べないとな!」

 俺はやる気を出したが、一つ気になることがあった。

「なあレイ。一つ聞きたいんだが......」

 レイが首を傾げる。

「お前の先生って美人?」

 そう聞くと顔にめがけて、こぶし大の石が飛んできた。

「あっぶねえな、何すんだよ!」

 レイから何かおぞましいオーラが漂っていた。

「どんな人か特長くらい教えてくれてもいいだろう? 胸はあるのかとか、足は細いのかとか、スタイルはってぇぇぇぇ!」

 今度は小石がガトリングのごとく襲ってきた。

「いていていていて! やめろ、やめろって!」

 レイは攻撃を止めない。

「いい加減にしろ! レイー!」

 山に俺の叫びがこだました。

 俺はこれからもこんな暴力的な幽霊と付き合っていかなければならない。しかし、俺はまだレイのことを知り尽くしてはいない。まだ小学生時代、そして最近の彼女しか知らず、表面的な部分しか知り得ていないと思う。俺は、レイのことをもっともっと知りたい。そのためにまた明日から動きだそう。

 俺とレイの物語はまだ始まったばかりだ。

 

                   了

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

憑依探偵 風神レイ ~君の身体で推理する~ 桐華江漢 @need

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ