本屋の片隅でぜひとも一冊の本として出会いたい

 あなたは、ふらりと本屋に立ち寄って、タイトルだけを見ることはないだろうか。
 新作からも特集コーナーからさえも離れた文庫棚をなんとなしに見ていると、ふっと気になるタイトルがある。
 興味を惹かれて手に取ってみると、短編集のようだからとぱらぱらとめくって適当に一話流し読んでみる。これが面白い。小脇に抱えてレジへ行く。

 これはまさに、そういう経緯をたどったようなweb小説だ。
 なぜ本屋に置いていないのか? 理解できない。
 きっとまだページ数が足りないからだろう。そうにちがいない。

 短編集の中身について、わざわざ私のような者のレビューで知ってしまうことはない。そんなことより作者自身がつけたキャッチコピーのごとく、モスバーガーの注文後の待ち時間にでも読むといい。暇も潰れて一石二鳥だ。数話ぐらい読み終えて面白さに気分が高揚した頃には注文した品がやってきてお腹も膨れる。これで三鳥にはなる。

 とはいえまったく触れないのもどうかと思うのでいっておくと、はじまりは何てことのない場面から、話を追っていくとどういう世界観なのか次第にわかってくる。
 SF的な驚きと同時に、話のはじまりあたりに感じたわずかな違和感について理解することになる。これがとても心地よい。しかも話によってはタイトルから殴ってくる。
 内容とまったく関係ないにも関わらず、こういったweb小説でありがちである、「誤字脱字が多くて世界観から現実に引きずり戻される」現象が起きないのも好印象である。

 いや、それにしてもいったいこんなものを書けるのは誰なのだろう。
 そういえば名前をよく見ていなかった、と名前をクリックすると、「横浜駅SF」の文字が目に入った。

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