いくら丼の間に立つ非日常
- ★★★ Excellent!!!
日常の何気ない時間が鮮やかに転換する物語。
朝の身支度から始まりメイクや服装、会話のリズムまで丁寧に描かれる出だしは、まるで主人公の隣にいるような錯覚を覚えます。
小さな動作や習慣の積み重ねが、登場人物ふたりの関係性を自然に浮かび上がらせています。
舞台が海辺の街に移ると、空気感は一気に柔らかく、穏やかさに満ちた雰囲気へと変わります。
いくら丼の描写は瑞々しく、五感を刺激される鮮やかさがありました。
その流れの中で訪れる出来事は、読者にとっても主人公にとっても予想外の瞬間。
思わず息を呑むような強烈な印象を残します。
穏やかで安定した時間の中にぽつんと差し込まれる非日常。
それがあまりに不自然であると同時に、人生において避けて通れない分岐点を示す。
そのコントラストがユーモラスながらも胸に迫り、読後に余韻を残す物語でした。