日常の延長にある小さな奇跡
- ★★★ Excellent!!!
舞台はありふれたカフェ。
登場人物は店員と常連客。
そこに交わされる何気ない言葉や仕草が、少しずつ物語を温めていきます。
ほんの一言、さりげない気遣い。
差し出された小さなもの――
それらが積み重なることで、人の心は確かに動いていきます。
その自然な流れが心地よく、読んでいるうちに日常の中に隠れている奇跡を探したくなる気持ちになります。
季節の移り変わりとともに、ふたりの距離感が変わっていく描写。
秋の冷たい雨、そして冬の灯り。
それらが心情を静かに映し出し、最後にはやさしい温もりを残してくれます。
結末の一歩手前で投げかけられる言葉は、読者にとっても思わず胸が高鳴ります。
その答えはぜひ読んで確かめてほしいですが、これまでの積み重ねがあったからこそ、胸を打ちます。
誰もが日常の中でふと見落としがちな小さな出来事に、人生を変えるほどの意味が宿ることをそっと教えてくれる。
そんなあたたかい一篇でした。