日常の何気ない時間が鮮やかに転換する物語。
朝の身支度から始まりメイクや服装、会話のリズムまで丁寧に描かれる出だしは、まるで主人公の隣にいるような錯覚を覚えます。
小さな動作や習慣の積み重ねが、登場人物ふたりの関係性を自然に浮かび上がらせています。
舞台が海辺の街に移ると、空気感は一気に柔らかく、穏やかさに満ちた雰囲気へと変わります。
いくら丼の描写は瑞々しく、五感を刺激される鮮やかさがありました。
その流れの中で訪れる出来事は、読者にとっても主人公にとっても予想外の瞬間。
思わず息を呑むような強烈な印象を残します。
穏やかで安定した時間の中にぽつんと差し込まれる非日常。
それがあまりに不自然であると同時に、人生において避けて通れない分岐点を示す。
そのコントラストがユーモラスながらも胸に迫り、読後に余韻を残す物語でした。
とても素晴らしい作品でした。
前半の日常の描写!
丁寧なのに、詰まることなく淡々と情報がはいってきます。
こういう作品、たまにありますよね。
3年目の穏やかな倦怠の描き方も素敵で、何の疑問も違和感なく、すっと入ってきます。
(わたしはごちゃごちゃ書いちゃうので、こんなに読みやすくできませぬ)
そして、だからこその黒いモノリス!
前半の描写があったからこそ、いくら丼の隣に置かれる違和感が際立ちます。
その違和感を「SF」に見立てる比喩表現が、独特の納得感とおかしみをもって現れるんです!
そんな積み重ねがあるからこそ「いくらが口の中に弾ける」その描写に自然と意味を見出そうとしちゃいます。
とりあえず噛んでしまうのもよくわかるし、「弾ける」というのも、なんともいえない他の感情が弾ける様子にしかもう見えません。
SF っていうとちょっと派手な、日常からかけ離れた展開を描きがちじゃないですか。
それを何気ない描写の積み重ねと、そこで起こる出来事を SF に例えるのって、とても新鮮です!
勉強になりました!