トクトクトク

ネモリク

第1話

午後6時7分。部屋へ向かってドアを開けると、見知らぬ顔に驚いた。床には物が散乱していた。

「こんにちは!デインの母です」

「こんにちは、奥様」と私は応じた。

彼女は私の唯一のルームメイトの母親だった。

「デインは寮を移るんです」

「どうして?」と尋ねると、

「昨夜、隣部屋の酔っ払いがあなたのドアを叩いたの。ディーンがドアを開けた瞬間、男は叫びながら部屋に乱入し、襲いかかろうとした。その時彼女は一人だった。私はこの件を報告し、ディーンは退寮を許可されたの」とディーンの母親は説明した。

突然ディーンがこの寮を出ていくとは、私は衝撃を受けた。

部屋に着いたばかりのデインは荷物をまとめると、母親と共に去っていった。

「あなたも気をつけてね」とデインの母親は私に念を押した。

私はただうなずき、微笑んだ。

ベッドに横になった。ぐっすり眠りについたその時…

トクトクトクトク

気にせず寝返りを打った。

トクトクトクトクトクトク

もう真夜中の12時だ。

トクトクトクトクトクトクトクトクトク

今度は怒りを含んだノック音で、心臓が飛び出しそうになった。

「誰ですか?」と私は尋ねた。

誰かを確認しようとドアを開けて部屋を出たが、誰もいなかった。

寮のロビーに降りて行き、寮の警備員に近づいた。

「警備員さん、私の部屋を三回ノックしたのはあなたですか?」

「私ですか? 私は上階には行っていません。あなたの階にも行っていませんよ」

「さっき誰かがドアをノックしたんです。出てきたら誰もいませんでした」

「何かされましたか?」

「いいえ。でも、邪魔したことに怒っているようでした」

「わかりました、防犯カメラを確認しましょう」

ふと気づいた。「あの酔っ払い男だ。彼かもしれない!」

デインの母親が話していた、私たちの部屋をノックしていた酔っ払いの男を思い出した。

「おっしゃる酔っ払いの男性も、すでにユニットを退去しております。ディーン様より前の朝、ユニットを去りました。自分の行為を後悔していると述べ、すぐに建物を出たそうです」

足が冷たくなった。信じられなかった。

あの奇妙な出来事のせいで、私もこの寮を去る決心をしたのだ。






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トクトクトク ネモリク @Nemorique

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