第3話
ウィンドフェルの秋は、黄金色のウィートコーンが畑一面を埋め尽くす季節だ。
エルン・グリーンフィールドは朝早く、いつものように畑へ向かう。
空気はひんやりとし、朝露が草葉に光る。今日は特別な日だ。村全体で秋の大収穫祭の準備が始まる。ウィートコーンの最後の収穫を終え、村人たちで祝うイベントだ。
エルンは畑の端でしゃがみ込み、土に手を当て、魔力を流す。作物はまるで応えるように、葉を揺らし、黄金の実が輝く。
「よし、今年もいい出来だ。これなら祭りも盛り上がるな。」
エルンは収穫用の鎌を手に、ウィートコーンを丁寧に刈り取る。
村の他の農夫たちも畑に散らばり、歌を口ずさみながら作業を進める。
ファンタジー世界の農村とはいえ、収穫の喜びはどの世界でも変わらない。リナが隣の畑から現れ、彼女のハーブバスケットを手に笑顔を見せる。
「エルン、今年のウィートコーン、ほんとすごいよ! 私のハーブ肥料のおかげかな?」
「半分はな」
とエルンは笑う。
「残り半分は俺の魔力と汗だ。」
リナは笑いながら、エルンのカゴに薬草を一束放り込む。
「これ、祭りのスープに使ってよ。風の精霊の力がこもってるから、飲むと元気が出るよ。」
午前中の収穫を終え、エルンは少し休憩がてら、村そばの林へ向かう。
祭りのごちそうには、ファロックスやトリックスター・フォックスの肉が欠かせない。今日は少し欲を出して、トリックスター・フォックスを狙ってみることにした。あの賢い狸は、魔法の草を食べ、動きが素早い。
エルンは弓と罠を手に、林の奥へ静かに踏み込む。
林の中は、木々の間に淡い魔力の霧が漂い、鳥のさえずりが響く。エルンは地面に小さな魔法陣を描き、罠を仕掛ける。
村人たちが使う簡単な魔法だ。罠の中心には、リナからもらったハーブを置き、フォックスをおびき寄せる。しばらく待つと、茂みからキラリと光る目が現れた。
トリックスター・フォックスだ。尻尾の毛が虹色に輝き、まるで小さな魔法の結晶のよう。
「よし、動くなよ……」
エルンは息を殺し、弓を引き絞る。
だが、フォックスは一瞬で方向を変え、罠の外へ飛び出す。
矢は空を切り、フォックスは嘲笑うような鳴き声を上げて逃げていく。
「ちっ、相変わらず賢いな! 次は絶対捕まえるぞ!」
エルンは悔しがりつつも、笑顔で引き上げる。
結局、ファロックスを二匹仕留め、村へ戻る。村の広場はすでに祭りの準備で賑わっていた。
子供たちが木の枝に色とりどりの布を飾り、女たちが大きな鍋でスープを煮込む。エルンの母はウィートコーンの粉でパンケーキを焼き、甘い香りが漂う。
ミアは興奮して走り回り、エルンに飛びついてくる。
「兄さん! トリックスター・フォックスは? 捕まえた?」
「いや、逃げられたよ。けど、ファロックスならあるぜ。祭りのスープ、楽しみにしてろ。」
ミアは少しがっかりしつつも、パンケーキを手に跳ね回る。
夕方、収穫祭が始まる。
村の中央に大きな焚き火が焚かれ、村人全員が集まる。ウィートコーンの実を模した魔法のランタンが浮かび、風の精霊の加護を象徴する淡い光が村を包む。エルンは家族やリナと並んで座り、スープとパンケーキを味わう。
リナのハーブスープは、飲むと体が軽くなり、笑顔が自然とこぼれる。祭りのハイライトは、村の古老による「風の精霊の物語」だ。
古老は杖を手に、火のそばで語り始める。
「このウィンドフェルは、風の精霊シルフィアの加護によって栄えた。かつて、魔獣の群れが村を襲った時、シルフィアが現れ、風の刃で我々を守ったのだ……」
子供たちは目を輝かせ、大人たちは静かに頷く。
エルンはこの話を何度も聞いたが、なぜか今日、胸に響く。
畑の作物、狩猟の獲物、すべてがこの土地の恵みだと改めて思う。祭りの最後は、村人全員での歌だ。簡単な旋律だが、魔力を込めて歌うと、風がそよぐように響き合う。
エルンも声を張り上げ、リナとミアが隣で笑いながら歌う。夜空には星が輝き、遠くの林からトリックスター・フォックスの鳴き声が聞こえる。
まるで、祭りに参加しているかのようだ。祭りが終わり、家に戻る。エルンはベッドに横になりながら、今日のことを振り返る。収穫の達成感、フォックスの逃亡、村人たちの笑顔。どれもが、このウィンドフェルの日常だ。
「明日も畑だな。フォックス、待ってろよ。」
エルンはそう呟き、静かな眠りについた。
農村ライフ〜毎日忙しく楽しい農村へようこそ〜 みなと劉 @minatoryu
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