夢「Dream」

@matsuwari

悲しみはだれにでも突然訪れる

プロローグ


朝から昇る太陽は毎日私を照らす。

それがいつも不思議だ。

まるで私の悩みを知らないように、平然と光を放つ。


私は日に問いたい。

一体なぜ、私の人生はこんなに大変なのか。


しかし、太陽は答えない。

いつものように、沈黙だけが私を包み込む。


久しぶりに作った朝ごはん。

温かい白いご飯、そして艶のあるサバ焼き。

誰に与えるものでもない。

今日だけは、自分自身に与える食事だ。


私のためにご飯を食べて、

私のために今日を生きなければならないようだ。


ということで、今日は、

私に手紙を書いてみようと思う。


第1話:熱い薪の火はいつも黒く現れる


今日は成人になる日だ。

人々はそれを記念するかのように夜の街に降り注いだ。


コンビニの前にはお酒を買おうとする子供たちが並び、

誰かは慣れたようにタバコを選んだ。


元旦の夜。

花火が上がる空の下、私はその風景を眺めながら思った。


「このままでいいかもしれない。」


だから、ほんの一瞬だったけど···

私は自分の未来に希望というものを持ってみた。


明日の朝。

いつもより早く目が覚めた。


高校生の時の習慣がまだ残っているのかな。

頭は重くて、中は空っぽだ。

「……お腹すいた」


口から漏れた言葉は誰にも届かず、部屋の中に散らばった。


冷蔵庫のドアを開けた。

納豆1個、卵二粒。

「買い物しなきゃ」


何の意味もない一日の始まり。

気象庁のアプリを開いて天気を確認した。

「晴」


その一言に安堵するには,私の感情は少し鈍くなっていた。


外に出た。

澄み切った空、強い日差し。

しかし、空気はまだ冷たかった。


私の体のどこかはいつもこの季節のように冷たく凍っていた。


スーパーまでは10分の距離。

ちょっと悩んだが、歩くことにした。

「10分でいいじゃん」


私の言葉は自分自身に対する言い訳のようだった。


途中で来た頃、

襟の間に食い込む冷気に、もう一度後悔した。


「バスに乗ればよかった···」


スーパーに着いた時、

ドアを開けて出てくる女を見た。

派手でない身なり。

しかし視線が彼に向けられたのは、

もしかすると、その中のある「光」のためだった。


思わずつぶやいた。

「わあ、きれい」


彼女は振り返った。

一瞬、私の目が彼女の目と合った。


あわてた私は慌てて顔をそむけてスーパーの中に入った。


マートの中をゆっくりと回った。

豆もやし、ナス、鶏肉、サバ、

そして様々なソース。


レジの前でも私はさっきの彼女の顔を思い出していた。

手に持ったかごよりも重い感情が胸にかかっていた。


買い物が終わった後、私はまっすぐ家に帰らなかった。

近くの公園に座った。

「今日は··· いいね」


日差しが暖かいためだろうか。

気分が、ほんの少しだけよくなった。


そうしているうちに、その女性に再び出くわした。

胸が、太鼓のように鳴った。


ドゥドゥン、ドゥドゥン、ドゥドゥン、


我知らず起き上がった。

「すみません!」


彼女は止まった。

私は震える声で言った。

「…もし、番号をいただけますか?」


驚いたことに、彼女は笑いながら番号を渡した。


その瞬間、私は生きているという感覚をほんの少し感じた。


家に帰る途中、

心臓は依然として揺れ動いていた。


買い物かごを台所に投げるように置いて、

私は彼女にメールを送った。

「今、公園で······ 戸惑ったでしょう?」


10分ほどしてメールが届いた。


[「スーパーで知ってました~」°ω°]

その瞬間私は, 顔が赤くなる

布団を蹴飛ばして体を丸めた。

「ああ··· 恥ずかしい……」


気を引き締めて買い物を片付けた。

納豆と卵だけだった冷蔵庫が一つずつ、

ゆっくり満たされていった。

不思議なことに、少し気が楽になった。

何かが「正常な生活」に戻るようだった。


その感情は.. ずっと昔のあの日に似ていた。

その日、私の誕生日だった日。


その日も私は気分が良かった。


日本のある有名高校で試験を終えた日。

私の成績は良かったし、家に帰りながら誕生日パーティーを期待した。


ドアを開けながら私は叫んだ。

「お母さん、お父さん! 私、試験Aを受けたよ!“


ところが、家は静かだった。

空気は不自然なほどおかしかったし、

居間は冷たい雰囲気でいっぱいだった。


私はそこで止まった。

お母さんは天井に、

父は床に倒れていた。


血が床ににじんでいた。

私の足先まで染み込んだあの赤い線。


私は何の音も出せないまま。

しばらくそのように立っていた。


私の家のドアが開いていることを不審に思った隣のおばさんがドアを開けて入ってきた。


おばさんの悲鳴とともに

警察官。救急車。大人のざわめき


そして、ある警察官が私に近づき、言った。

「もしかして何かあったのか知っている?“


私はぼんやりとした目で答えた。

「今日、試験が終わって······ 誕生日パーティーをしようと思っていました。“


彼は私の肩をゆっくりと叩いた。


そして、何も言わずに頭を下げた。


私は白い布で覆われた両親の姿を見て

其の場で気絶した。


その後、私は 空いているのを見るのが難しくなった。


冷蔵庫であれ、部屋であれ、心であれ、空っぽだという事実は


私にとって死の恐怖だった。


第2話:過ぎたバスはいくら待っても来ない

また一日が過ぎた。

私は立ち上がって布団を片付けた。

ほこりのせいか、喉がむずむずして咳が出た。

「ごほん、ごほん」


習慣のように冷蔵庫を開けた。

がらんとした冷気に埋もれた、昨日買ってきたナスと白米。

それを取り出して静かに朝食をとった。


焼きナスを噛んでいる間に、

携帯電話が振動した。


タク、

振動一つに胸が先に反応した。


[今日、お時間大丈夫ですか?°w°?]


彼女だった。


私はその文字一つにあわてて服を裏返しに着た。

トイレの鏡の前に立った私の姿はまるで

恋に酔ったように気が狂った男のようだった。

「……はぁ」


携帯電話を置き忘れるところだったし、

ズボンにはまだタグもついていた。

すべてが滑稽なほど下手だった。


やっと服を着替えて彼女にメールを残した。


[僕は今日の午後、時間があります。]


ドアを開けて出てくる時、私は悟った。

今日は気象庁のアプリも開いていない。


昨日のような私ではなかった。

心臓は太鼓の音のように鳴った。


ドキ

ドキ


世の中が静かでも私の胸の中はうるさかった。

しかし、肝心の一つを忘れたようだった。

「どこで会うことにしたの?」


再び携帯電話をつけてみたらメールが来ていた。


[昨日公園で会いましょう]^^]


昨日番号をもらったあの場所。

彼女と私の間の出発点。


突然、このすべてが必然のように感じられた。


公園前の自動販売機で水2本を抜くためにコインを入れた瞬間。

彼女が私の目の前に現れた。

「こんにちは」


彼女の声に驚いた私はコインをすべて落とした。

えっと、すみません..“


彼女は笑いながら一緒にコインを拾ってくれた。

そして手を振りながら言った。

「私の名前はサナミミナです」


佐南ミナ。

波のように柔らかく揺れる名前。


我知らず聞いた。

「夏は好きですか?“


彼女は首をかしげた。

「え?夏ですか? 急にですか?“


当惑した私は急いで目をそらした。

「あ、違います…···“


彼女は残りのコインを私の手に握らせながら尋ねた。

「お名前は?“


文字に書いたという錯覚をしたようだ。

私は顔を上げて答えた。


"西村リョカイです"。“


彼女は大爆笑した。

「何か結びのいい名前ですね。“


彼女の笑いに私は冷や汗をかいた。

"...ハハハ."


彼女は聞いた。

「それで今日私と会って何をしたいですか?“


私はどもった。

「あの。。あの。。カフェ。。」“


「え?もう一度言ってみてくださいか?“


彼女は耳を傾けた。

「カフェです」


彼女の表情はあいまいにこわばった。

「ふむ、何かありきたりじゃないですか?“


私は再び頭を悩ませた。

「じゃあ、ご飯.. 食べますか?“


彼女はお腹をなでながら言った。

「昨日食べ過ぎてお腹がはちきれます。“


雰囲気が少しぎこちなくなった。

彼女はいらいらしているように見えたので、自分で提案した。


「じゃあ、カラオケかゲームセンターはどうですか?“


私はしばらく立ち止まった。

そんな騒々しい空間はいつも私と合わなかった。

不慣れで、避けたいところ。


彼女はすでに足を動かそうとしているところだった。


その時、通りすがりのバスの電光掲示板に

短い文章がすれ違った。


-過ぎたバスはいくら待っても来ない。-


5秒、いや3秒も経ってない。

その文章が私の心に触れた。


私は彼女を見つめながら言った。

「はい、行きましょう」


第3話:強化されたガラスは小さな針ですぐに割れる

彼女と会ってからもう3ヶ月が経った。

毎日ではなくても、よく会って話した。

そしてその分、少しずつ何かが慣れてきた。


「リョカイ~今日はカフェに行こうか?“


いつも午後3時、彼女はカフェを訪れた。


「よし、行こう。“


私はコーヒーが好きではない。

カフェのソファに長く座っているのも嫌だ。

しかし毎回、嫌だと言い出すことができなかった。


いつの間にか心にもない返事が口についた。


[2ヵ月前]


「私はアメリカーノにイチゴケーキ」


彼女はいつも同じメニュー、同じ席


「分かった。私が頼んでくるよ。“


彼女は窓際の席に座り、84番バスを眺めた。

いつもその場で、同じ表情で

「なんで84番のバスばかり見てるの?“

聞いたのはその日が初めてだった。


彼女はぎくりと肩を震わせた。

視線を避けた。


"...どうしたの?“


しかし、彼女は何も言わなかった。

私はそれ以来、その数字を口にしていない。


[現在]


私たちは今日も同じカフェに来た。

同じ時間、同じ席


今は彼女の目を見ただけでメニューが分かるようになった。


「私が注文するよ。 座ってて。“


コーヒーとケーキを持って席に座った。

彼女はまた窓の外を見た。


今日も84番バスだった。


彼女は私の視線を感じたのか

今度は先に口を開いた。


「リョウカイ、私どうしていつも84番のバスを見てるの··· 気になったでしょ?“

私はうなずいた。

「うん。実はずっと気になってたんだ。“

彼女はいつもと違った表情をしていた。

自信満々のミナじゃなくて、

小さくなった影のようだった。


84番は私の友達が好きだった数字だよ。“


友達?一瞬、理解できなかった。


「じゃ、会えばいいじゃないか。“


彼女は静かに話した。

「いないよ。今は」


小声。

最初に力が抜けたミナの声だった。


「もしかして··· その友達今どこにいるの?“


彼女はうつむいた。

長い髪が顔を覆った。

私はそれ以上聞かなかった。

そして私たちは何も言わずに席を立った。


「さようなら」

「うん、そうなんだ」


家に帰って彼女の言葉をかみしめた。

友達。84番。好きな数字。


私はインターネット検索窓をつけて

彼女の中学校の名前を検索した。


「誰だったんだろう…」“


しかし、明確な情報は出ていない。


彼女の悲しみを逃したくなかった。

それで私はメールを送った。


[明日84番バスに乗ってカフェに行こう]


翌朝、メールが届いた。


「リョカイ、私、時間が必要みたい」


私はすぐ電話をかけたけど

彼女は受けなかった。


「私が余計なことを触ったのか…···“


彼女のことが知りたかった。

彼女が笑う理由 ぼんやりしている理由

しかし、彼女はしきりに後ろに退いた。


連絡は何日もなかった。


私は独り言のように言った。

「どうしたんだろう…···“


ずっと考えた。

彼女に近づく方法

私が間違ったのではないか、数百回振り返ってみた。


しかし、考えれば考えるほど

彼女との距離は遠くなった。


まるで、小さな針一本で

強化ガラスに亀裂が入るように


第4話:故障した壁掛け時計にもカッコウは鳴

彼女と連絡が途絶えてから一週間目。

僕は朝、目が覚めてすぐに 気象庁のアプリより

彼女のメッセージをまず確認する。


「…今日も来てないね。“


夜を明かすのはもう日常になったし、

目の下のクマはもっと濃くなった。

体はゆっくりと崩れていた。


それでも私は毎日のように彼女を探すために

公園に向かった。


その公園もすでに変わっていた。

噴水台は消え、

その場に新しい建築物が建ち並んでいた。


「噴水台で笑っていた姿も、だんだんぼやけてくるね···“


慣れていたものが不慣れになるほど、

私の心の中の時間は止まってほしかった。


公園で一時間ほど待つ、

私はまた毎日行っていたカフェに足を向けた。


外で窓越しにちらちらしながら彼女の跡を探したが、

どこにも彼女はいなかった。


店員さんに聞いてみようか悩んだけど、

彼らは1日に何百人もの客を覚えているはずがなかった。


「…は、カフェにもないな。“


ちょうどその時、道路を通っていた84番バス。

瞬間、その中で彼女の姿が通り過ぎた。


「え?」


私はすぐに道路に出てタクシーを止めた。

「タクシー!あのバスについて行ってください!“


1時間近く、バスは遠くまで走った。

とうとう終点で彼女が降りた。


私は駆け寄って彼女に聞きたかった。

「なんで何も言わずに消えたの?」

「僕がどれだけ待ってたか···」


しかしその瞬間

彼女は男の人と仲良く歩いていた。


その姿を見て私はその場に凍りついた。

体の中を埋め尽くしたのは虚しさと虚しさ。

そして説明できない怒りと悲しみ。


「何をそんなに悪いことしたんだ···?」

自責と嫉妬が入り交じって腹をこわした。


私は家に戻り、彼女の連絡先を消してしまった。

最初から私にはなかった人だと思いたかった。


天井を眺めながら横になって何もしないまま、

その1週間が無駄ではなかったという証拠を探そうと努力した。

悔しかった。


その夜、布団を頭のてっぺんまでかぶってやっと眠りについた。

そして朝。

頭が割れるように痛かった。


「薬がないか…···“


常備薬箱は空っぽだった。


家の外に薬を買いに出た瞬間, 空さえ泣いているような大雨


傘もなしにびしょ濡れの私の姿が

ひときわみすぼらしかった。

また傘を持ってきたときは、

天気はうそのように晴れ上がった。


強い日差しが全身を照らした。


「何だよ、これは···“


私は怒って傘を道端に放り投げた。


あてどなく街をさまよい、とあるコンビニに入った。

そして普段は飲んだこともない焼酎を一本買った。


ふたを開けるやいなや、缶焼酎を一気に飲み干した。

苦味が口の中に広がったが、

今の私の負け犬よりは少なく書いた。


彼女の笑い声とその男の顔がしきりに思い浮かんだ。

怒りと悲しみ、悔しさが入り混じって、気が遠くなった。


その時、頭の中をかすめた文章一つ。


<壊れた壁掛け時計にもカッコウは泣く。>


「私の体がこんなに崩れても、

彼女も相変らずよく笑っているでしょう..“


私はふと気がついた。

このまま彼女のせいで崩れることはできないということを。


残った焼酎半瓶を持って、

私はそのままゴミ箱に注いでしまった。


そして、その場にしばらく立っていた。


私の中で止まっていた時間が、

ほんの少し、また動き出した。


第5話:舞い散るシャンプーの香りは、春の桜のようには思い出せない

部屋の中は隠れて詰まるほど窮屈だった。

彼女を忘れて新たに始めようと決心した初日、

私は掃除から始めた。


数ヶ月間手をつけなかった部屋はまるで豚小屋のようで、

湿っぽいにおいが鼻をついた。


「おぉ、匂いがする…··· 本当に放置しすぎたね。“


布団を持って窓際に行こう、

積もったほこりが目と鼻を食い込んで咳があふれた。

しかし、妙に気分は悪くなかった。

整理とともに心も少しは軽くなったようだった。


クローゼットを開け、外出着を選びながらつぶやいた。

「何を着て出かけるの?“


その時に鳴った携帯電話のアラームは、また広告メッセージだった。

毎日のように来るスパム通知。

消しても消してもきりがない。


部屋を出て無計画に街を歩いた。

ところで、遠く

彼女と、前に見たあの男が見えた。

手足が震えた。

ある程度克服したと思ったが、現実ではなかった。


「……過ぎ去った縁だ。 恋々としないようにしよう。“


自分で慰めたが、視線はしきりに彼女を追った。

二人が車に乗る姿を見ると、好奇心が湧いた。

どこへ行くんだろう?


我知らず彼の後を追って行った。

到着したのはバス停だった。

以前、彼女と一緒にカフェに行くときによく通っていたそこ。

停留所の標識の「84番」が目についた。


「84番バス··· 何の関連があるんだろう?“


息苦しさを我慢できず、すぐに84番バスに乗った。

1時間以上走ったあげく終点に到着した。


私は運転手さんに注意深く尋ねた。

「もしかしてこのバス事故が起きたことがありましたか?“


運転手さんのうなずきと私が見せた彼女の写真

驚いた表情がすべてを語ってくれた。

直感的に分かった。

このバスが、彼女の痛みとつながっていることを。


私は再び彼女を探し、終点にとどまった。

予想通り1時間半後、彼女と男が現れた。


「84番バス··· 友達のせいなの?“

彼女の表情はこわばった。

その隣の男が私を阻んで言ったが、

私は無視して問い返した。

「その話··· 聞いたよ」


しばらく沈黙が流れる、彼女は口を開いた。


[3年前]


その日も友達とカフェに行くところだった。

いつものように84番バスに乗って、軽い気持ちで。


「今日も思いっきりおしゃべりしよう~」


しかし、バスが突然急停車し、キーッという音とともに悲鳴が上がった。

誰かが倒れたという声に顔を背けた瞬間、私は凍りついた。


友人が冷たい道路の上に倒れていた。

血がにじんでいた。

足の力が抜けて座り込んだ。


「119…誰が.. 電話してください..“


声がうまく出なかった。

その時、一人の男が代わりに通報した。

彼は今彼女のそばにいる男だった。


病院に運ばれた友人の手術室の前で、両親に出くわした。

何も言えなかった。

友達のお母さんが私を抱きしめた瞬間、私は泣き崩れた。


そして…医者の表情を見るだけでも、結果がわかった。


彼女の話を聞き終えた後、私はこれ以上何も言えなかった。

彼女とその男の縁、

そして、彼女がバスの前に立っていた理由

理解するしかなかった。


シャンプーの香りのように、桜のように···

ある記憶は時間が経つにつれて薄れていく。>


しかし忘れないために、

ある人は一生その道をまた歩いていく。


第6話: 古い花は香りがないが、早く散る花は濃い香りを残す

私はやっと彼女とその男に再会した。

ミナの顔はやつれていて、涙で腫れた目元が

すべてを語っていた。


「何も言わないで。 君の心··· みんな知ってるよ、ミナ。“


私の口から無意識に彼女の名前が飛び出した。

びっくりした彼女が私を見た。

私自身も知らなかった。

なぜ今初めて彼女の名前を呼んでしまったのか。


その瞬間、隣に立っていた男が目に入った。

私は彼に警戒するように尋ねた。

「あなた…誰ですか?“


彼は返事の代わりに名刺を差し出した。

そこにはたった一つの文字だけが書かれていた。


<夢>


私は一瞬、ベッド会社や雑誌の広告を思い出した。

しかし、おかしかった。 名前も、会社名も、連絡先もなかった。


夢って··· 何のお仕事をなさっているんですか?“

代わりにミナが口を開いた。


「この人は.. 夢を見ることができるようにしてくれたり、

叶えてくれるように手伝ってくれる人だって。“

私は呆れた。


「そんなことが世の中にどこにあるの。 詐欺師じゃないの?“


夢という言葉自体が私には見慣れないものだった。

希望を抱く瞬間、もっと大きな絶望が訪れるということを

私はすでに知っていた。


「夢なんて存在しない。“


私の言葉にミナの表情が一瞬固まった。

君なら理解してくれると思ったのに、という目つきだった。

しかし、私の頭の中はすでに複雑に絡み合っていた。


「知らない。私はただ.. 信じられない。“


正直、私も夢を追いかけたかった。

しかし、再び崩れるのではないかと怖かった。


その時、ミナが淡々と話した。


「そうだね、君の言うことが正しいかもしれない。

夢がないかもしれない。

... しかし、夢のない人は結局遅れをとるんだ。“

彼女の言葉は妙に私の胸を突いた。

喪失感を誰よりもよく知っている彼女が、なぜこのようなことを言ったのだろうか。

そうしているうちに私は悟った。

私の友達が空で私を見たら.. 何だと思う?“


彼女の震える声

私はやっと雷のように気づいた。


私はいつも事がうまくいかなければ自責ばかりして、

死を人生の終わりと考えた。

しかしミナは死んだ人を記憶し、

依然として生きていた。


私が逃したのはまさにそれだった。


「……そうだね、よくは見ないだろう。“


私は今まで両親の命日さえ祝ったことがなかった。

すべての悲しみを一人で抱え込んで隠すのが当然だと思った彼女が大人のように見えたのはまさにそのためだった。


「じゃあ、君は?あなたの夢は叶ったの? それともまだ追いかけてるの?“

彼女はしばらく目を閉じてから静かに話した。


私は今.. 夢を追いかけるところだよ。“


その言葉が変に解り始めた。

84番バス、私との出会い、彼女が繰り返していた行動。

すべてが一つの夢に向けた一歩だった。


「もう…少し分かる気がする。“

私はそう言って家に帰った。


家の中はひときわ静かだった。

机の上には私が前に書いた文が何枚か置かれていた。


「これは何だろう…?」


読み上げると、頭がぼーっとした。


[その日]

両親の葬式を終えて家に帰った時、

私はすべての物を整理してしまった。

思い出したくないから、いや、思い出したらもっと痛くなるかと思って。

それで私の記憶がだんだん消えた。

まるでフィルム一枚がはがれたように。


私はその文を読んで手から紙を落とした。

空いているのが怖くていっぱいにしようとした私。

ところが、定着が空いていたのは私自身だった。


「それで私は··· 物で埋めたんだね。“

恐怖が全身に燃え上がった。

また、別の書き込みが目に入った。



[佐南ミナと会った日]

最初は理解できなかったし、かわいそうに見えた。

しかし、何度か遭遇して、私はますます彼女に連れ去られた。

大切な人だと思うようになった。


私は息を整えて文を下ろした。


「...結局、私がもっと探していたんだね。“


その瞬間、ミナが言った言葉がまた思い浮かんだ。

「夢を追う。」

もしかすると私も彼女との出会いを通じて

夢を追いかけてきたのではないだろうか。


窓辺に置かれた花が目に入った。

しおれてしまったと思ったら、近づいて行こう

まだ香りが色濃く残っていた。


しかし、1時間後、花びらはすべて地面に落ちた。


「もう死んだ花だったんだ。“


それでも香りは私の記憶の中に長く残った。


< 古い花は香りがありませんが、

早く散る花は濃い香りを残す。>


思い出も、たぶんそうだった。


第7話:天使なの? 悪魔なの?いったい誰なの

翌日、私は部屋の中をもう一度見回した。

同じように暮らしてきたこの家が今日に限って見慣れない感じがした。

服を適当に羽織って、スーパーでダンボールを一つ買って帰ってきた。


箱を開けておいてぼーっとしていなかった。

なぜ買ったのかも分からなかった。

私は再びペンを持ち上げた。

文を書く間、見知らぬ自分自身に向き合うのが大変だった。


引き出しを整理していたらアルバムを見つけた。

子供の頃の私は笑っていた。

友達と一緒に撮った写真、いたずらっぽく笑う顔たち。

しかし、ある瞬間から写真の中にはいつも私一人だけだった。

寂しさに慣れれば慣れるほど、表情も次第に消えた。


そのうちの一枚、引き裂かれた家族写真があった。

私は写真を取り出して机の上に置いた。

しばらく写真を見ながらつぶやいた。


「あの日…私がもう少し早く家に帰ってきたら。“


目がかすんできた。

遅れて知った薬袋の日付、成人して3ヶ月が過ぎた日。

それ以来私は薬をやめて記憶をしっかりと押さえた。

すべてが、その時から始まりだった。


写真の裏面には小さな文字が書かれていた。

赤黒くにじんだ字

[愛するうちの息子西村]


「最後まで、私のために···“


その文章を見た瞬間、胸が崩れた。

こらえてきた悲しみが一気に降り注いだ。


「私は我慢するだけでよくなると思ったのに···“


息が詰まって窓際に歩いて行った。

昨日見た枯れた花が見えた。

花びらを一つちぎって紙に貼って文を書いた。


[枯れた花びら]

私に心が枯れたあの日

部屋の中に漂う恐怖感

一人で生き残ったのがとても嫌だった。

ミナが言った夢··· 私も見てみたい。


しかし、すぐに考えが崩れた。

「夢なんか、現実ではだめだよ。“


虚しさに腹が減った。

冷蔵庫を開けると、サバ一匹と米一握りだけだった。

私はあえなく笑いながらサバを焼いて食卓を整えた。


「骨を取るのが、前は面倒だったけど······“

「今はあまりにも簡単に抜けるね。“

かつて食べたくなかったサバが今では思い出の味になった。

とげは人間関係の傷のようだった。

大変だが、結局は抜かなければ飲み込めない。


ご飯を食べて、段ボール箱に文字とペンを入れた。

箱の上にはこう書いた。


[天使?悪魔?]? 誰なのか聞く人は一体誰なのか]


最後の文字だった。


朝日が窓に広がった。

いつも太陽に聞いていた質問が思い浮かんだ。

「どうして私の人生はこんなに大変なの?“


やっと分かった。

太陽はいつも静かに光を与えていた。

悲しみさえ抱くその気持ちが、少しは理解できた。


私は携帯電話を初期化した。

誕生日に着ていた服をまた取り出して着て窓際に歩いて行った。

窓はかさかさしてよく開かなかった。

まるで最後のドアを無理やり開けたようだった。


部屋に向かって二拝した。

何も残っていない。

今日は両親の命日で私の誕生日。

"お誕生日おめでとう 西村了海"

私は落ち着いた声で話した。

そして窓のすぐ前に立って言った。


「これからは.. 夢のために旅立つよ。“


[その時刻、サナミミナ]


ミナはリョウカイに渡す物を持って家を出た。

バスに乗って地下鉄を乗り換えれば15分余りかかる距離。

近くて近寄りがたいあの家。


「今日は必ず言わなきゃ。 私が見た夢の話を。“


カメラを持って出てきて、自分を撮った。

「また別の一日が始まる。“


バスに乗っている途中、街頭の電光掲示板が見えた。

その時、電光掲示板にニュース速報が目に入った。

西の村の住宅で一人の男性が転落死。


一瞬息が詰まった。

「あの··· リョカイの家じゃないの?“


私は急いでバスを降りた。

しかし、捕まることのないタクシーで私は手足が震えた。

結局、パトカーを捕まえて現場に向かった。


警察も状況を理解したかのように、一緒に行こうと言った。


リョカイの家の前はすでに警察でいっぱいだった。

ミナは立ち止まって、これ以上近づくことができなかった。


「西村···」


その名前だけ心の中で呼んだ。

涙が流れ落ちるのが止められなかった。


「もう家族に会ったんだね.. おめでとう」


[エピローグ]

最後の瞬間の西村


私は建物から落ちた後、すべてが走馬灯のように感じられた。

ここがどこかもわからない場所で、なんだか心が安らぐ。

こんな感じは生きてみて感じたことがなかった..

窓際に鳥の声がやっと聞こえた。


人々の声もやっと聞こえた。

私は知らなかった。 そして私が忘れていた。

私を大事に思っていた人がいるということを。


しかし、今になって「知ってどうするのか」という考えもした。


悲しみはあまりにも悪い感情のようだ。

伝染病のような感じ、だから伝えたくない。


その人のため、いや私のためがもっと正しい言葉だ。

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