土岐頼遠「この義経、ひでえ奴だな」高師直「まったくだ」
- ★★★ Excellent!!!
数々の傑作歴史短編をものされておられる四谷軒氏の最新作は、三題噺「気」「幕」「電撃」の参加作品。……で、電撃? 歴史物で?
しかし「電撃」の謎は、作品概要であっさり判明。それは「電撃戦」でした。
歴史的には、第二次大戦の序盤に独軍が見せた機動戦のドクトリンを指しますが、その本質は「奇襲」にあります。
どれほど迅速に戦闘部隊を移動できても、その動きが相手に予測されていたら意味がありません。機動力を駆使して、「時間」や「場所」、ときには「戦力」で相手の裏をかくからこそ有効なこの戦術を、日本史上有名な奇襲作戦である「一ノ谷の合戦」、いわゆる「鵯越(ひよどりごえ)の逆落とし」の描写に使ったのは、さすがは四谷氏です。
本作は、奇襲の指揮官・源義経と、守将・平宗盛が対峙するシーンから始まります。そこから時間をさかのぼり、この合戦に至る状況――平家が奇襲を受けるに至った経緯――が描かれます。
そして迎えたクライマックス。史実で知るとおり、義経は電撃的な奇襲を成功させ、わずか七十騎で平家の陣に突入します。
しかし歴史を知る者には、ひとつの疑問がわきます。いかに虚を突かれたとは言え、万を越す軍勢が、わずか七十騎の集団の前に潰走するものでしょうか?
本作では、その謎についてもひとつの答えを提示しています。その答えは――
義経やべー!
どうやべーかは、ぜひ本作をお読みください!
なお、レビュー見出し文の「土岐頼遠」は、南北朝時代に光厳上皇の牛車に無礼を働いたやべー奴です。「高師直」も、同時期に天皇や上皇についてやべー発言をした(ことにされてる)やべー奴です。おまいう。