いま、私も歴史小説を書いているのですが、文章がほんとうに勉強になります。
どれくらい勉強になるのかというと、作品世界に入り込むのに、じゃまになるくらい(笑)。
なるほど、そう書けばいいのか、(自分の)小説のあそこを直さないと、などと思いながら、毎エピソードをたのしく読んでいます。
歴史小説を書く苦しさのひとつに、「結果を読み手が知っている」というものがあります。
毛利元就が若い頃のことを知っている読み手は少ないでしょうが、「信長の野望」における大国毛利を知らない人は稀でしょう。
若い頃の元就が苦労している姿を描いても、「でも、結局、うまく行くんでしょう?」と思われながら書く。これはなかなか辛いことです。
そこで、書き手ができること、やらなければならないことは、苦難を乗り越える、成功する「プロセス」を巧みに書くことです。
結果(オチ)ではなく、その過程を楽しませる必要があります。
そして、それに必要なのは、歴史的な知識よりも、文章と構成の力だと思います。
YouTubeの歴史もので、どの動画が人気なのかを調べてみてください。
だれも知らないことを教えてくれる、歴史に造詣が深い方の動画ではありません。
観やすくて、理解しやすくて、楽しい動画です。
これを小説に置き換えれば、「文章と構成に優れた作品」になると思います。
そして、この作品は、文章と構成に優れている小説だと、私は評価しています。
戦国を代表する謀略の徒と言えば、斎藤道三、宇喜多直家など何人もの名が挙がると思いますが、成果の大きさで言えば毛利元就が一番なのではないでしょうか。
謀略を繰り返せば心に闇が広がり、それは家臣だけでなく自身の家族にも伝播していきます。その結果謀略によって起こった家は、得てして裏切りや家中の争いによって家が傾き易いように思えます。
ただ、毛利家は例外で大きくなればなるほど、より家中の団結が強くなり、とりわけ一族内の結束が強まったように思えてなりません。
毛利家と他の家との違いは何だったのか?
本作はまさにその答えを描き出そうとしているように思えます。
肉親の間の相克、家臣との間の相克、そして最後は自身の心の中の相克。
物語が進む中で、様々な形で描かれる相克に真摯に向かい合い、打ち勝つことで謀略を駆使しながらも、負のスパイラルに陥らない強い家を築けたのではないか。
四谷軒さんが描き出す相克の物語はまだまだ続きます。
これからどんどん大きくなる毛利家のように、今後の展開が楽しみな作品です!
ひとこと紹介を書きたいが為に本レビューを上げた事については、腰パンで「ちっ、うっせーな」と謝罪したい程度には反省しています(反省していない)。
勿論、そんな理由だけのレビューではありません。
前々作で武田○矢、前作ではついに宇宙へ飛び出して読者をワクワクさせてくれた四谷軒様。後はノ○ターンしか無いんじゃないかと心配していたら、歴史ものに戻って来てくれました。有難い。
それも、既に2作リリースされている毛利元就!非常に楽しみです。シリーズの過去2作がそうであるように、時系列順でありながらそれぞれ完結した作品ですので本作のみでも、遡っても楽しめます。でもやっぱり本作を読んだら、前作も読みたくなる筈。
読書のお供はトナカイの鈴か、除夜の鐘か。どちらにしても風情をかき立ててくれるでしょう。全年齢対象ですので(ですよね?)、良い子にもオススメです。