魅力的――むしろ蠱惑的とさえいえる、とらえどころのない義経に痺れる!

タイトルのとおり、かの「一ノ谷の戦い」をモチーフにした歴史小説ですが、「鹿に越えられるものが馬に越えられぬはずがない。それーっ! いけーっ!」という単純な物語ではありません(すみません、私の『一ノ谷の戦い』についての知識なんてその程度のものなのです……)。
作者様の義経の、敵の裏の裏の裏を読む頭の良さ、何を考えているかわからない底知れなさが過不足なく描かれていて、最後の最後まで「こう来たか!」と驚かされます。1万字に満たない短編とは思えない密度と満足感です。
絶対に敵には回したくない。味方についてくれたとしてもちょっと怖い。そんな義経の魅力に完全に痺れてしまいました。いえ、もうすでに、同作者様の「笹竜胆咲く ~源頼朝、挙兵~」や「春の海のあたたかさとつめたさと」で痺れているのですが……。
また、ラストでの弁慶との会話が、よりいっそう物語に深みを与えています。義経は目的のためなら手段を選ばぬ、非情なだけの男なのか。それとも……?
それぞれの解釈を楽しみながら、皆様も義経の魅力に痺れてしまってください!

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