他人の恐怖は蜜の味? でもその蜜、毒になるかもしれませんよ……
- ★★★ Excellent!!!
「まんじゅうこわい」のお話ではありませんが、誰にでも怖いものがあります。
何かきっかけがあって怖くなったというものもあれば、わけもなく怖いというものもある。きっかけがあったとしてもそれを忘れてしまっているということもあるかもしれません。
本作はそんな、誰もがひとつは持っている「怖いもの」をテーマにした短編集。
まず驚かされるのは、その「怖いもの」の多彩さです。
「出血」や「ゴキブリ」といった定番のものから「駅」や「ラーメン」といった変わり種まで……「自分もこれが怖い!」と共感したり、「どうしてこれが怖いんだ?」と首を傾げたりしながら読んでいるうちに、物語に引きずりこまれていきます。「引きこまれていく」ではなく、あえて「引きずりこまれていく」といいたい!
さらにテイストも多彩で、殺人鬼ものや毒親ものもあれば、有名な伝説をもとにしたものまで。
また、「怖さ」の表現も「怖いもの」の表現も卓抜しており、自分が怖いものはますます怖く、怖くないものも怖く思われてくるのです。腕や背中がざわざわぞわぞわしてきて、思わずこすりたくなってしまいます。
「他人の不幸は蜜の味」ならぬ、「他人の恐怖は蜜の味」。バリエーション豊かで驚きに満ちた極上の恐怖の数々を、どうぞお愉しみください。
でも、愉しんでいたつもりがいつの間にか自分も恐怖に囚われていたということにならないよう、お気をつけくださいね。
この短編集にはそれだけの魔力がありますから。