Major Taro
キカイ工
Major Taro
宴の席をそっと抜け出した。
壮麗な海王の城に比べると城下町は貧しく物寂しい。だが不思議と懐かしさを感じさせる。夜毎夜毎に大きくなる黒い月が、今にも夜空を覆い隠してしまいそうだ。
広場に乗り捨てられた船を横目に闇を行くと、僕の心の有りようを映して静かに狂う町とは別種の、狂気を孕んだ光が現れる。女はあれを「ネオン管」と呼んでいただろうか。
『HOTEL』
毒々しい薔薇色に輝く異郷の言葉は宿を意味するものらしい。
今宵もその明かりの下で娘は待っていた。海の王のひとり娘だ。昨日も、一昨日の夜もそこに立っていた。
「わたし、赤ん坊が欲しいの」そう言って。
今夜も僕はこの僅かに自分とは異なる姿形をした女を抱くのだろうか。泥に沈むように女に溺れ、息を継ぐ度にそのおぞましさから女を傷つける。気が遠くなるほど何度も何度も射精を繰り返し、その冷ややかな肌からは想像もつかない熱いはらわたに顔をうずめ朝を迎えるだろうか。
ここの夜は長い。
まるで宇宙に放り出されたみたいに暗く長い。
娘が腕を絡ませる。背筋が粟立ち脳が痺れる。どうして毎晩、この女は僕に殺されにやって来るのだろう。僕が望むからか。町がひどく懐かしいのと同じように。
いつか僕は引き裂いた女の腹から赤ん坊を取り上げるだろう。
船はまだあそこにあっただろうか。
管制塔より太郎少佐へ
管制塔より浦島太郎少佐へ
応答せよ。応答せよ。
Major Taro キカイ工 @kikaikou1
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