夏の短編

　高校二年生の宮沢涼介は、特待生として入学したものの、今は勉強への情熱を失い、退学の危機に瀕していた。特に苦手な数学の期末テストで赤点をとり、夏休み明けのテスト結果次第で特待生の資格を剝奪されるという、絶望的な状況に追い込まれてしまう。

　そんな彼の前に現れたのが、臨時の数学の担当、白石久美子先生だった。「夏は蒸発するんだよ」と詩的な言葉を口にする、少し不思議な魅力を持つ彼女。その分かりやすい授業と優しい人柄に、涼介は次第に惹かれていく。

　涼介の窮状を知った久美子先生は、夏休みの間、二人きりで補習を行うことを提案する。静かな図書室、突然の夕立、鳴り響く蝉時雨――共に過ごす特別な時間の中で、二人の心は教師と生徒の垣根を越えて急接近していく。しかし、夏が終われば先生は学校を去ってしまう。迫…続きを読む