盆踊り探偵の事件簿 ドンパン節爆死事件

さわみずのあん

爆破死ななきゃ治らない

「犯人はこの中にいる」

 探偵は、容疑者三人を集め、そう宣言した。


 容疑者の三人。

 松野。

 竹山。

 梅田。

 は、順々に口を開く。


「そな、待ってください。探偵さん」

「松野だけに?」

「竹山っ」

「なっ、何がの、まつがいじゃっ」

「松野だけに?」

「おいっ、竹山っ」


「残念ながら……、宇野木さんを殺すことができたのは、ここにいる方のみです。そして、その、犯人は、」

 探偵は三人の前を、悠と歩き、手をゆっくりと舞うように上げる。

「犯人はあなただっ」


「おっ、俺?」

「最初から、そう言えば良かったのでは? 犯人はこの中にいるって、言う必要なかったのでは?」

「竹山っ。確かにそれは、そうだが」

「待ってください探偵さん。何がのまつがいじゃっ」

「松野だけに?」

「おい、竹っ。あ、ああっ、松野だけに?」


「あの、すいません。お囃子のお二人。探偵の説明の前に納得しないでください。今から、私のカッコいいとこ、なんですから」


「まっ、待で待で、やっでねえで、俺は、殺しでねえ。俺は、宇野木を。爆殺は、しちゃいねえ。ちょっと、突き飛ばしたら、頭をぶつけで、それで、」

「助からない。と思ったんだな。宇野木は、」

「確かに、それで、最後に、」


「やめて、やめて。勝手に音頭を取らないで。私が探偵。私が探偵だから。あー、もう。もっかい。もっかいやります。犯人は、あなただっ。松野さん。あなたが宇野木さんを殺したんです。松野さんは宇野木さんと口論になり、突き飛ばし。宇野木さんは、頭を強く打った。死を待つ朦朧とする意識の中で、宇野木さんは、犯人が松野だということを示そうとした。そう。ダイイングメッセージです。犯人の名前。松野を伝えるため。宇野木さんは、そばにあった爆弾に火をつけた」


「どっ、どういうことだ?」

「松野だけに」

「松野だけに」


「そう。松野だけに。爆弾は松野さんの『松』を表していたのです。爆弾。『ボム』。『ボム』の『ホ』は、『松』の『木』を。『ボム』の『゛』は、『松』の『八』を。『ボム』の『ム』は、『松』の『ム』を。『ボム』イコール『松』。犯人は、『松』の松野さんだっ」


「うっ。ううううう。まつがいありません」

「いやあおみごとなすいり。さすがはたんていさんだ」

「ほんとだ。すごいな。さすがだ。しらなかった」


「全く興味のない盆踊りを踊る死んだ目をした賞賛をありがとうございます」


 こうして、事件は解決した。




 十年後の八月。

 とある場所にて、お祭りのフィナーレ。

 盆踊り大会が行われていた。

 竹山と梅田は、偶然出会った。


「よう。梅田」

「よう。竹山」

「久しぶりだな、あれから、もう。十年か」

「竹山に会うのは、あの事件以来か」

「松野は、今年には出れるんだっけっか」

「そう。みたいだな。おっ、おい、あれあれあの人っ」

「んっ、あっ、探偵さんじゃないか。あの時の」


 二人が気づくと、同時に、太鼓の音が、どん。どんっどんっ。かっ。そして、一際大きく。どどっんっ。

 音楽が止み。

 探偵は二人に気がついた。


「探偵さん」

「こっちこっち」


「ああ、あの時のお囃子のお二人」


「探偵さん。その節はどうも」

「不思議な縁もあるもので。探偵さん」

「あれ、そういえば、探偵さん、探偵さんって、お呼びしてますけど、」

「ああ、そういえば、そうだな。探偵さん。失礼ですが、お名前、なんでしたっけ」


盆平ぼんだいら盆平ぼんだいら舞人まいと




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