第9話 おじさま、ザマァする


 気がつくと私は床の上に横たわり、両手をミオと銀髪の少女が握っていた。


「おお、勇者、気がついたか?」


 銀髪の少女が言う。彼女は銀色のドラゴンだったはずだ。

 なら、作戦は上手く行ったということか。

 起き上がろうとしたが、体全体が痛い。


 ミオさんが怒った口調で言う。


「無理せられなするな! 今蘇生魔法で復活したばからりだから、しばらく動かないで!」


 アッカマツ君も私を覗き込んでいる。


「俺から説明すると、オッサンはその龍の嬢ちゃんにこんがり焼かれた」


 やはりそうですか。


「ミオが残りの力では蘇生出来ないって泣きわめいて……そしたら正気に戻った龍の嬢ちゃんが協力を申し出てくれた」


 私の顔に大粒の水滴が落ちる。ミオさんだろう。


「おじさま……アタシ……助けてくれって言いましたけど……死んでもなんて言って……ません」


「すまなかった」



「ところで、わらわはもうここにはいたくない。外へ連れて行ってくれれば知っていることはなんでも話してやるぞ」


「元々俺等は嬢ちゃんをここから追い出すためにやって来た。一緒に来てくれるとありがたい」


「おじさま、帰りましょう」


「ええ、ですが……」


「今は何も言わないでください」


 何かの魔法なのだろう、私は浮かんだ状態で運び出された。


 道中、私は考える。

 ……私の帰るところはどこなのだろうか。


 ◇◇◇


 生還後我々は猫王に謁見し、事の次第を報告した。


「という訳で、この子がその銀龍です」

「妾は白ずくめの男に囚われ、操られていたのじゃ。本来妾は戦いを好まぬ」


 銀龍である少女は、天空の迷宮にいた事情を王に話し、許しを請うた。

「サーセン」


「ニ゛ャ」

「我が王は、龍がこの地を離れる事を条件に、全てを許すと仰せだ」


 お付きの大臣がうやうやしく述べる。


「残念ながら、白ずくめの男がどこへ消えたのかはわかりません」


「ニ゛ャ」

「ギューネ・アッカマツよ、その男よりタリスマンを取り返してくるのです。と、我が王は仰せである」


「はっ、この一命にかけて、必ず」


「ニ゛ャ」

「魔法学院のミオ・イ=デイよ、異世界からのサトーよ、見事な働きであった。出来る限り恩に報いよう。何なりと申してみよ。と、我が王は仰せである」


 そうですね……


 ◇◇◇


「師匠! お湯の温度はこれで良いのでしょうか」

「オッサンはやめてくださいと言いましたが、師匠というのもいかがなものかと」



 ダイトカイ市の魔法学園近く。

 町並みを見下ろす事が出来る山の上に、建物はあった。

 猫王の計らいで手に入れた、住居兼事務所である。



「といいますか、いつまでアッカマツ君はここに居続けるのですか?」

「それが、親父から師匠に付いて一人前になったら帰ってこいと言われてまして」


 それは体の良い厄介払いではないでしょうか?

 まぁ良いです。そんなことを言っても誰も得しません。


「お前は厄介払いされたのじゃ。妾にはわかる」

「あー腹立つなこのぐうたら銀龍。お前も働け」

「妾には"リョウ"という名前があるからそれで呼べと何度言えば解るのだこのデコチン」


 銀龍は行くあてがなく、ここに居候している。

 "リョウ"と言うのは、私の付けた彼女の名前だ。


「アッカマツ君にリョウさん、お茶の準備を。もうそろそろミオさんが来られる時刻です」


「「りょ」」


 二人は準備を再開する。

 意外と良いコンビなるかもしれない。



「おじさま! 一週間ぶりです!」


 ミオさんは今回の事、特にメモリの事を報告するために魔法大学へ戻っていた。

 それが今日は大事な話があるということだが。


 ひとしきり世話話をした後、さて本題をお話しますと切り出された。


「例のメモリが国内で散見されていまして、学園長から調査と回収を仰せつかりました」


 トゥルルル…… トゥルルル……


「つきましては、ぜひおじさま一行にも参加いただきたく……」


 トゥルルル…… トゥルルル……


 アプリ『超次元電話』に着信だった。

 発信元は"岩藏涼子"。


「ちょっと失礼」


 通話を押すと、一言「石、どうでしたか?」


 電話口の向こうから笑い声が聞こえる。

 懐かしい声が聞こえる……


『フフフ、思ったより元気そうじゃない』


「そちらも」


『石だけど、"アマラテス石"と言ってこちらの世界ではかなり希少よ。お陰で私は本社に呼び戻されたわ』


 彼女は素材の研究をしている。

 成果がかんばしくなくて地方に異動していたが、これからは陽の目を見るだろう。

 

『半導体の性能アップに使う目処が立つかも。あるだけ送って。高価で買い取るから』


「あったら送るよ」


『あ、張子部長何か? え、代わって欲しい?』


『張子だ。何をやっているんだ、今すぐ帰ってこい』


 どこまでも身勝手な奴だ。


『サーバのDISKアレイがいかれて全社システムが動かない。電子書類キャビネットはウイルスに侵されて使えない。勘定系システムは変なソフトに乗っ取られて身代金を要求してきている。すぐに君の活躍が期待されている』


「例のITコンサルに泣きついてみては?」


『コンサルは今朝から全く連絡がつかん。前から思っていたがあいつは頼りにならん。な~、今度もんじゃ焼きおごってあげるからさ~、頼むよ~。虎屋の羊羹も喰わせてあげしさ~』


 電話の向こうで泡を喰っているようだった。面白いけど、もう十分です。

 それじゃあ最後にお約束をしましょうか。



「本部長、昨日辞表を超次元内容証明郵便で人事に送りました。私はもはやヘルプデスクではないのであなたを助けることはありません。最後に良いですか」


『なんだ?』


「ざまあ」


 電話の向こうで本部長は「くぁwsえdふじこ」と猛獣のように叫んでいた。

 私は満足して超次元アプリ電話を切った。




「おじさま、本当にそれでいいの?」


 ミオさんが心配そうに私を見つめる。


「東京の世界に戻れるチャンスじゃったかもしれんのに」


「既にここが私の故郷です。だから、あちらには戻りません」


 ◇◇◇


 出発の準備は整った。

 今回はウシマド《瀬戸内市牛窓》地方へ趣き、出没するクラーケン下津井ダコを何とかしつつ、メモリについて調査するミッションである。


「もうどうせバレるのでいっちゃいますが、今回はアタシの父、ウシマド地方の領主からの依頼です」


「じゃあミオさん領主の娘ってこと? マジで? 俺ぜんぜんわからなかった!」


「妾は知っておったぞ。お主に宿っているそれ……まぁ良いわ。それよりレーセーよ、お前さんはカキ・オコ牡蠣入りお好み焼きが喰いたいだけだろう?」


「そのようなことはありません。楽しみですが、ね」


 風が心地よかった。

 これからきっと色々な事が起こるのでしょうか、なんとかなりそうな気がします。



 では、参りましょうか。




<了>



─────────────────────────────────────


 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 冒険譚はまだまだ続きますが、一区切りとさせていただきます。

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異世界「ダイトカイ」に追放されたおじさま、非戦闘スキル「ヘルプデスク」で銀龍と戦う 風波野ナオ @nao-kazahano

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