彼女の声が、記憶を失ったあなたにささやきかけます。
「こっちだよ」
彼女の声が導くのは、二人の思い出。春夏秋、そして冬。恋人として過ごした、甘く楽しい時間。
お互いに大好きで、仲の良い恋人だったことが思い出からうかがえます。
でも……。
G’sこえけんの応募作品なので、小説を読んでいるというよりは、まるですぐそばで彼女がささやいているような気分になります。
彼女の声。優しくて、でもどこか切なくて、聞いていると胸がくすぐったくなるようなそんな声なのかなぁ、と私はイメージしました。
控えめながらも、付き合っていくうちに積極的なところも見せた彼女。
そんな彼女が導いた先にあったものは、作品のタイトルどおりの「癒される記憶」そのものであるように思います。
彼女によって、切ない記憶さえも力強いものに変わっていく。そんな旅であるように感じました。
彼女のセリフと環境音でストーリーは進んでいきますが、物語の世界にスッと入っていけます。
優しさに満ちた読みやすい作品です。
台本形式の作品です。
そういうのを読みなれていない読者の方も多いかもしれませんが、文章がしっかりしている作者さんなので、読みづらいといったようなことはないかと思います。
そして、ストーリーですが――。
主人公は記憶を失っており、気がついたら川のなかにいて、腰まで浸かっているようです。しかも、深い霧のせいで、なにも見えない。
ただし、その霧の向こう側から声が聞こえてくる。この声の主に誘導され、歩きはじめる主人公。
主人公が思い出せない記憶とはなんなのか?
主人公に語りかけてくる声の主は誰なのか?
それらすべてがわかるとき、切なくも優しいラストが待っています。
これ以上は重大なネタばらしになってしまうため、言えません。なので、このレビューを読まれた方は本作にも目を通してみて、どんなラストなのかを、ぜひ確認してみてください。
『せせらぎ~最愛の声に導かれ癒される記憶の旅~』、おすすめです!
最後まで読み終えたあと、切ない感じが胸の中に深く突き刺さります。
主人公は、気が付くと川の前にいる。そこには恋人だった少女がいる。
どうして自分がそこにいるのか。彼女との関係はどうなっていたか。
思い出せるようにと、少女はこれまでに何があったのかと過去の光景を見せてくる。
春、夏、秋、冬。それぞれの季節で何があったか。
交際を始め、夏には川で水遊びをし、秋には紅葉を見ながらハイキング。
幸せな時間が続く。恋人と一緒に過ごす時間の幸せさがストレートに伝わってきます。
そんな二人の身に一体何が起こったのか。最後の季節まで読み解く中で、「真実」が見えてくることに。
彼女の存在がとても健気で、主人公とはどんな関係にあり、どんな想いを抱いていたかがしんみりと伝わってきます。
そうして迎えるラスト。主人公と一緒になって「四つの季節」を体感した読者には、深々と突き刺さるものがあることでしょう。
存在するはずだった「もう一つの冬」。そこに込められた彼女の想いや、エンディング後に「彼」が抱くであろう気持ち。それを想像すると、ただひたすら寂しさや切なさを強く感じさせられました。