番外編3:村長の懺悔(視点:佐伯義男)
……暗い。冷たい。水の底だ。
わしの体は、影に、怨念に絡め取られ、沈んでいく。息は、とうに尽きた。だが、意識だけが、妙にはっきりしている。走馬灯というやつか。
わしが、まだほんの子供だった頃。わしにも、親友がいた。利発で、優しいやつだった。あいつは、よそから来た子供だった。ある日、村の大人たちに連れていかれ、二度と帰ってこなかった。「影踏み祭り」の、依り代になったのだ。わしは、何もできなかった。怖くて、見ていることしかできなかった。
あの日からだ。わしは、掟を恐れるようになった。影見様を、心底恐れるようになった。
村長になった時、わしは誓った。二度と、あのような悲劇を起こさせないと。村を、安寧に導いてみせると。だが、わしが選んだ方法は、間違っていた。わしは、恐怖を打ち払うのではなく、より大きな恐怖で村を縛り付けたのだ。掟を絶対のものとし、それに逆らう者を許さず、村人たちの心から、疑うという感情さえ奪い去った。
恐怖は、人を狂わせる。わしは、村を守るという大義名分のもとに、蓮の妹を、そして何人もの罪なき者を犠牲にしてきた。わしは、狂信者などではない。ただの、臆病者だったのだ。幼い頃に植え付けられた恐怖から、生涯、逃れることのできなかった、弱い人間だった。
ああ、見える。湖の底に、沈んでいる。人身御供になった双子の姉妹が。わしが犠牲にしてきた者たちが。皆、静かにわしを見ている。責めるでもなく、ただ、静かに。
そうだ。わしは、謝らねばならん。
すまなかった。ミオ、マオ。お前たちの悲しみを、わしは自分の恐怖で塗りつぶしてきた。
すまなかった。蓮の妹よ。
すまなかった。わしが友と呼んだ、お前よ。
すまなか……った……。
ようやく、闇が、わしの意識を優しく包んでくれる。もう、何にも怯えなくて、いいのだな……。
これで、やっと……。
夜鳴村の影踏み ~都会に疲れた私が迷い込んだのは、よそ者の影を喰らう呪われた因習の村でした~ 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi
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