番外編2:黒川蓮の告白(視点:黒川蓮)

 美咲。お前の墓に、こうして穏やかな気持ちで話しかけられるのは、何年ぶりだろうな。

 楓さんが村を去ってから、季節が一つ巡った。村は、変わったよ。もう、誰も影に怯えてない。鎮めの湖は「双子の湖」って名前になって、子供たちの笑い声が聞こえるようになった。信じられるか?

 十年前のあの日のこと、俺は一日だって忘れたことはなかった。村長たちが家に来て、「掟だ」とお前を連れていこうとした時、俺は何もできなかった。怖かったんだ。村八分にされるのが。影見様の祟りが。まだガキだった俺は、お前が引きずられていくのを、ただ震えて見ていることしかできなかった。

 お前が湖に身を投げたと聞かされた時、俺は、お前を殺したのは村長たちだけじゃない、俺も同じだと思った。お前が「影が呼んでる」って怯えていた時、ちゃんと話を聞いてやれなかった俺が、お前を見殺しにしたんだ。

 その罪悪感が、ずっと俺の心を縛り付けてた。だから俺は、この村から出られなかったんだ。お前を一人、この呪われた土地に置いていくことなんて、できなかったから。

 楓さんが来て、全てが変わった。あいつは、お前や、もっと昔の双子たちが抱えていた悲しみに、ちゃんと耳を傾けてくれた。力でねじ伏せるんじゃなくて、ただ、その声を聞こうとしてくれた。俺には、できなかったことだ。

 最後の夜、俺は湖に落ちた。死ぬかと思ったよ。でもな、不思議なんだ。水の中で、お前の気配がした。お前と、もう一人の誰かが、俺の体をそっと押し上げてくれたような気がしたんだ。お前、怒ってなかったんだな。ずっと、俺のこと、許してくれてたんだな。

 ごめんな、美咲。守ってやれなくて。

 そして、ありがとう。最後に、俺を許してくれて。

 俺は、この村で生きていく。お前や、あの子たちが安らかに眠れるように、この村を、ちゃんと守っていくよ。だから、見ててくれ。兄ちゃん、今度こそ、ちゃんとやるから。

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