The 29th Ride 反撃の狼煙


「じゃあな雑魚ども‼ くれぐれも俺らの邪魔すんじゃねえぞ!」


 そう吐き捨てたヨースケの表情には、明らかな侮蔑ぶべつが混ざっていた。僕がユーダイみたいな性格だったら憤慨して、すぐにでも後を追っていただろう。だけど……


 

 脳裏に小学校時代の嫌な記憶が蘇る。


 

 誰も声を掛けてくれなくて独りきりの休み時間。クラスに響き渡る楽しそうな笑い声。


 遠慮がちに僕へ声を掛けようとしてくれる気弱な友人を、目で制するヨースケ達。その表情は明らかに『ヤイチに声掛けたらどうなるか分かってんだろうな。お前も同じ目に遭いたいか?』と訴えかけているのが分かった。


 あの時と同じように、僕だけじゃなくチームメイトのみんなまで巻き込んでしまうとしたら。そう思うとペダルを踏む脚に力も入らない。


「ヤイチ! 奴ら動き出したぞ‼」

「ココで追わなければ多分、決定的な差になるだろうけど……どうする、青嶋君⁉」


 小田原の3人が前に合流してすぐ、集団全体のペースが上がって動揺が走る。ここまでの蓄積した疲労で付いていけなくなった選手たちが集団から振り落とされる中、ギリギリ集団のペースに留まるのを保ちながらユーダイと赤城君が叫んだ。だけど……どうしたらいいんだろう。


 

「青嶋、お前は……どうしたいんだ?」


 すぐ真横で問いかけてきた声に顔を上げると、奥歯をギリッと噛みしめた川原君が真剣な表情でこちらを見ていた。


「そりゃあ、追わないといけないと思っているけど……でも」

「……怖いか?」

「……うん」


 本当はそう思っていることなんて言うべきじゃないのかもしれないけれど。尋ねてきた川原君の口調からして、誤魔化しても見抜かれてしまう気がしたから。


 

「お前とヤツの間に中学時代、何があったのかは知らない。だが……さっきの言葉を聞く限りじゃ、お前が陸上を辞めるまで追い込まれた理由はアイツだという事だけは分かる。つまりは、俺にとっても因縁のある敵という事だ」


 川原君はそう言うと僕の前へ風を遮るように入ってくる。そして振り返ると僕へ腕を伸ばした。


「付いてこい。俺が曳く‼ ここがお前の借りを返す時だろ!」

「オレも完全同意だわ、奴らにとっちゃ俺らは舐められるような競技始めたばっかのネズミ程度でも、『窮鼠猫を噛む』って言葉もあるかんな」

「青嶋君が行くなら、僕も行くに決まってる!」


 その後ろに山崎君と田邊君も続く。そしていつも通りの自信満々な表情でユーダイが問いかけてくる。


「田邊君、山崎君も……」

「満場一致だな。いけんだろ? ヤイチ‼」



 そうだった。僕はもう小学生時代の何もできない僕じゃない。これまで一緒に練習してきた皆だって、威圧に屈してしまうようなメンバーじゃない。川原君の言う通り、今が『あの時代』のトラウマを蹴っ飛ばして完全に前へ進むチャンスなんじゃないか。


「うん……行こう‼」

「わかった。ペースを上げるぞ! 全員ちゃんと付いてこい‼」

「OK‼」

 

 僕が了承の合図を出したと同時に一気にペースを上げる川原君。集団の後方から段々とアウトコースを通って位置を上げていくけど、その中に小田原の黒いジャージは見当たらない。


 周回コースのホームストレートを抜ける時にチラリと見えた電光掲示板からは、先頭の通過タイムと今のタイム差は2分ちょっと。つまり小田原の6人は距離にして1㎞以上も先を進んでいることになる。はたしてそれだけの差を埋めて追いつけるんだろうか?


 

「川原君‼ 僕も先頭を替わるから‼」

「それなら僕も……」

「青嶋、赤城。気持ちは嬉しいが脚を温存しておいてくれ。お前達はが待ってるだろう? ……ぐっ‼」


 僕と赤城君の先頭交代の申し出を断って、頑なに先頭を曳き続けてくれている川原君。だけどその表情は苦しそうだ。ゼェゼェという息を吐く音が真後ろに付いていてもハッキリと聴こえてくる。


 何とかしてあげたいけれど……と思っている所で左右を誰かが追い越していくのが見えた。


「そんなら登りは俺が替わるぜ! バスケ部時代にゃ1クォーター(10分)走りっぱなしも想定した練習とか散々させられてきたからよぉ‼」


 そういって半ば強引に川原君の前に躍り出て立ち漕ぎダンシングで加速する山崎君。

 

「僕も替わるよ! ココが鍛えた筋肉の見せ所だからねッ♪」

「田邊、おま……何そのスゲェ筋肉⁉ 今まで隠してやがったのか‼」


 その後ろに田邊君と、いまさら彼の筋肉に気付いたユーダイも割って入る。アップダウンを繰り返すコースで下りから登りへ替わるたびに交代しながら、徐々に速度を上げていく4人。


 これなら、追いつけるかもしれない。レース前半のバラバラだった僕らなら無理だったかもしれないけれど、この6人でなら。



 そうして3周を廻り切ったホームストレートでようやく、小田原チームの後ろ姿を捉えた。レースは20周のうち17周を過ぎて、残り3周というところだ。


____________________

ようやく6人一丸となった鳴子坂高校・自転車競技部‼

果たして全員の力で小田原学園の独走を阻止することが出来るのか⁉

1年生レース編もいよいよ後半、最後まで応援して見届けていただけると嬉しいです♪

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【高校1年生レース編・開催中‼】Breathing ―ロードバイクと、キミと出会って― 川中島ケイ @kawanakajimakei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画